弁護士葛巻のコラム

2017.10.27更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、中小企業で多く用いられる、譲渡制限株式について、会社の承認がないままに上とされた場合、その効力は有効か?

誰を株主と扱えばよいか等について解説します。

 

1.承認なき譲渡制限株式の譲渡の効力

譲渡制限株式とは、譲渡の際に、会社の承認を必要とする種類株式です。

それでは、会社の承認(139条1項)がない場合、株式譲渡の効力をいかに解すべきでしょうか。

そもそも、株式に譲渡制限を付した目的は、会社に対する関係で譲渡を無効とし、会社にとって好ましくない者が株主になるのを阻止する点にあるとされています。

また、会社法137条1項、138条2号は、譲受人から承認請求することを認めており、これはすなわち、譲渡当事者間においては譲渡が有効であることを前提とされているのです。

したがって、会社との関係では無効であるとせざるを得ないものの、譲渡当事者間では有効であると解すべきです。

 

2.会社は誰を株主として扱えばよいか

では、その場合、会社は譲渡人、譲受人いずれを株主として取り扱うべきでしょうか。

この点、会社との関係で効力を生じないことの論理的帰結としては、譲渡人を株主として取り扱うべきとするのが自然でしょう。

また、株主権行使の空白発生を防ぐべきとの要請もあります。

したがって、会社は譲渡人を株主と取り扱うべき義務を負うと解すべきです。

なお、会社の同意があっても譲受人を株主として扱うことはできないとされています。

ここで、名義書換未了の株主の取り扱いについて、会社法130条2項・1項の趣旨は、会社と株主との関係を集団的・画一的に処理する会社の事務処理の便宜を図ることにあることから、会社のリスクで名義書換未了の株主を株主として扱うことは許されるものとされていることから、上記結論との整合性が問題となり得ます。

しかし、これが許されるのは株式譲渡自体が会社との関係でも有効であることが前提です。

そのため、会社の承認なき譲渡制限株式の譲渡のように、株式譲渡自体が会社との関係で効力を生じていなければ、会社が譲受人を株主と扱うことはできないものと解されます。

 

3.一人株主の全株式の譲渡の場合

それでは、一人株主が全株式を譲渡した場合はどうなるのでしょうか。

思うに、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあります。

そうだとすれば、一人株主が全株式を譲渡した場合、他の株主の利益保護が問題となる余地は全くありません。

したがって、一人株主の場合には、会社の承認は不要であると解されます。

なお、株主が二人だけの場合でも理論上この類型と同様に考えることが可能です。

株主が二人だけであるということは、つまり、その二人の株主が譲渡人と譲受人となっているということであり、会社にとって好ましくない者が株主になるおそれがないからです。

 

4.株主間での譲渡の場合

では、株主間での譲渡の場合はどうなるのでしょうか?(この場合、全株主が三人以上であるとする)

この場合、原則として、会社の承認がない以上、当該譲渡は会社に対抗できないのは同様です。

そして、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあるが、株主間における譲渡の場合には、会社にとって好ましくない者が新たに株主になるという問題は生じません。

そうだとすれば、株主間での合意に基づく株式の譲渡は有効であり、定款所定の承認を欠いても、会社に対抗することができるとも考えることができそうです。

しかし、個々の株主がどのような割合で株式を有するかという点についても、株主相互の関係にとって非常に重要であるといえます。

そのため、株主相互の株式の譲渡についても、定款所定の承認を要するものと解すべきです。

したがって、かかる譲渡を有効なものとして会社に対抗するためには、株主全員の間での合意を要すると考えるべきです。

この場合に限り、定款所定の承認がなくても譲渡は有効であり、会社に対抗することができると解する。

 

5.145条1号の見なし承認決議について

補論として、会社法145条1号の見なし承認決議の運用等について解説します。

本条の趣旨は、そもそも株式は譲渡自由が原則である(127条)以上、会社が譲渡承認請求に対する返答を意図的に遅滞することで、譲渡承認請求者による株式譲渡が不可能となる事態を防ぐことで、譲渡承認請求者に投下資本の回収を保障する点にあります。

そのため、仮に、会社が情報共有をしておらず、本件株式譲渡を承認するか否かについて検討する機会が失われていたとしても、145条1号は適用するべきでしょう。

もっとも、譲渡制限制度は株主の個性を重視する会社形態を考慮したものであるから、従来の株主保護を譲受人よりも優先させるべきです。

そのため、形式的に145条1号に当たる場合でも、従来の株主の地位を不当に脅かすような場合には、信義則上、同条の適用が否定される、とする見解もあるのでこの点には注意が必要です。

 

以上が、会社の承認なき譲渡制限株式の譲渡の効力でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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