弁護士葛巻のコラム

2017.09.29更新

皆様こんにちは!

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、見せ金等の仮装払い込みによって、会社法上生じる問題について解説してきます。

 

1.見せ金の払い込みの効力

まず、見せ金によって、発起人が行った払い込みの効力どうなるのでしょうか?

その前に、見せ金の定義ですが、

見せ金とは、発起人が払込取扱機関以外の者から借り入れた金を払込に充てて会社を設立した上、会社の成立後それを引き出して借入金の返還に充てる行為をいう。

とされています。

これによると、確かに、見せ金は形式的には金銭の移動があり、個々の行為は有効と考えられます。

しかし、見せ金行為を全体としてみると、個々の行為は仮装払込みのためのカラクリの一環をなしているに過ぎず、実質的には会社財産は確保されていないのです。

そうだとすれば、見せ金による払込みは無効と考えるべきでしょう。

具体的に、いかなる場合が見せ金に該当するのかの判断基準は、判例上

①借入金を返済するまでの期間の長短

②払込金が会社資金として運用された事実の有無

③借入金の返済が会社の資産関係に及ぼす影響の有無

等を総合的に観察して、払込の仮装と認められれば無効となるものと解釈されています。

なお、見せ金の場合も、募集設立の場合には、払込取扱機関は64条2項類推適用により保管証明責任を負うものと解されています。
 

2.仮装払込みにより払込みが無効とされた株式の効力

では、次に、見せ金等の仮装払い込みにより、払い込みが無効とされた株式の効力はどうなるのでしょうか?

この論点は、会社法改正前であれば無効説が有力でしたが、現在では有効説が有力とされています。

すなわち、会社法の改正により、出資の払込み等を仮装した募集株式引受人の払込金全額の・出資財産の価額に相当する金額全額の支払義務を新たに法定するとともに(213条の2、286条の2第1項)、当該義務の履行を行わない限り仮装払込者の株主の権利が停止する旨、及び当該仮装払込者からの善意・無重過失で株式を譲り受けた者の手元で株主権停止が解除され株主としての権利行使が可能となる旨が規定されました(209条2項・3項、282条2項・3項)。

また、併せて、仮装払込み等の場合の関与取締役等の仮装払込相当額の支払義務を法定しています(213条の3、286条の3)。

こうした立法措置に鑑みるならば、見せ金による払込みを無効と解しても、募集株式の発行等の効力までは無効または不存在となることが予定されていないというべきであり、募集株式の発行等の効力は依然として有効と解さざるを得ないと考えられます。
 

3.仮装払込みと設立の効力

最後に、仮装払い込みがなされた場合の会社設立の効力はどうなるのでしょうか?

この点、仮装払込みは無効であり(上記1)、会社財産が「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)に満たないと、設立無効原因(828条1項1号)となります。

 

以上が、見せ金等の仮装払い込みの諸問題に関する解説でした。

会社法、企業法務等のご相談は、弁護士葛巻にお任せください。

ご相談のご予約は以下の予約フォームからお願いいたします。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.29更新

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赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、見せ金等の仮装払い込みによって、会社法上生じる問題について解説してきます。

 

1.見せ金の払い込みの効力

まず、見せ金によって、発起人が行った払い込みの効力どうなるのでしょうか?

その前に、見せ金の定義ですが、

見せ金とは、発起人が払込取扱機関以外の者から借り入れた金を払込に充てて会社を設立した上、会社の成立後それを引き出して借入金の返還に充てる行為をいう。

とされています。

これによると、確かに、見せ金は形式的には金銭の移動があり、個々の行為は有効と考えられます。

しかし、見せ金行為を全体としてみると、個々の行為は仮装払込みのためのカラクリの一環をなしているに過ぎず、実質的には会社財産は確保されていないのです。

そうだとすれば、見せ金による払込みは無効と考えるべきでしょう。

具体的に、いかなる場合が見せ金に該当するのかの判断基準は、判例上

①借入金を返済するまでの期間の長短

②払込金が会社資金として運用された事実の有無

③借入金の返済が会社の資産関係に及ぼす影響の有無

等を総合的に観察して、払込の仮装と認められれば無効となるものと解釈されています。

なお、見せ金の場合も、募集設立の場合には、払込取扱機関は64条2項類推適用により保管証明責任を負うものと解されています。
 

2.仮装払込みにより払込みが無効とされた株式の効力

では、次に、見せ金等の仮装払い込みにより、払い込みが無効とされた株式の効力はどうなるのでしょうか?

この論点は、会社法改正前であれば無効説が有力でしたが、現在では有効説が有力とされています。

すなわち、会社法の改正により、出資の払込み等を仮装した募集株式引受人の払込金全額の・出資財産の価額に相当する金額全額の支払義務を新たに法定するとともに(213条の2、286条の2第1項)、当該義務の履行を行わない限り仮装払込者の株主の権利が停止する旨、及び当該仮装払込者からの善意・無重過失で株式を譲り受けた者の手元で株主権停止が解除され株主としての権利行使が可能となる旨が規定されました(209条2項・3項、282条2項・3項)。

また、併せて、仮装払込み等の場合の関与取締役等の仮装払込相当額の支払義務を法定しています(213条の3、286条の3)。

こうした立法措置に鑑みるならば、見せ金による払込みを無効と解しても、募集株式の発行等の効力までは無効または不存在となることが予定されていないというべきであり、募集株式の発行等の効力は依然として有効と解さざるを得ないと考えられます。
 

3.仮装払込みと設立の効力

最後に、仮装払い込みがなされた場合の会社設立の効力はどうなるのでしょうか?

この点、仮装払込みは無効であり(上記1)、会社財産が「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)に満たないと、設立無効原因(828条1項1号)となります。

 

以上が、見せ金等の仮装払い込みの諸問題に関する解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.15更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

本日のコラムは、会社法論点シリーズの第2回です。

内容は「法人格否認の法理」です。

 

1.そもそも、法人格否認の法理とは?

法人格否認の法理とは、法人格が法律の適用を回避するために濫用されたり、あるいは法人格が全くの形骸にすぎない場合に、具体的な事例において、会社がその構成員または他の会社と独立した法人格を有することを否定する法理です(当該事例についてのみそのような処理をします)。

すなわち、会社は法人であり(会社法3条)、会社自身が権利・義務の主体となるのですが、逆に言えば、会社が負担した義務を他の者(例えば、株主や代表取締役等)が負うことはありません。

しかし、この原則を貫くと、かえって、正義・公平の原則に反する結果が生じる場合があります。

例えば、会社の実質が全くの個人企業であるような場合であり、会社の取引相手からすればその取引が会社としてされたのか個人としてされたのか明らかでないような場合や(形骸化事例)、法人格を意のままに利用している株主が、違法・不当な目的のために法人格を濫用している場合です(濫用事例)。濫用事例の典型は、強制執行を免れまたは財産を隠匿する目的で別会社を用いる場合が挙げられます。

このような場合、会社という法人各を否定し、会社とその株主や他の会社を同一視することによって、妥当な処理を図るべきでしょう。

 

2.法人格否認の法理は認められるのか?

それでは、この法人格否認の法理は法解釈として認められるでしょうか?

法律上はこのような処理を認める明文規定はありません。

しかしながら、会社に法人格が付与されるのは、会社が社会的に存在する団体であり、権利義務の主体として認めることが国民経済上有用だからです。

そうだとすれば、法人としての実体がないような場合(形骸化事例)、や法人格が濫用されている場合(濫用事例)には、法人たる会社の形式的独立性を貫くと正義・衡平に反する結果となるため、法人格を否認し、会社と社員とを同一視するべきです。

このような価値判断から、法律上の規定はないものの、判例上、法人格否認の法理は古くから認められています。

 

3.上記二類型の特徴・判断要素

以下では、法人格否認の法理として、類型化されている、「形骸化事例」、「濫用事例」について、その特徴と法人格否認の法理適用の判断要素を解説します。

⑴形骸化事例の場合

形骸化事例は、法人とはいうものの、実質は社員の個人企業や親会社の一営業部門に過ぎないような、社員と会社に実質的・経済的な一体性が認められる場合を指します。

具体的には、

①事業活動混同の反復・継続

②会社と社員の義務・財産の全般的・継続的混同

③明確な帳簿記載・会計区分の欠如

④株主総会・取締役会の不開催

などといった、強行法的組織的規定の無視等の諸般の事情を総合的に考慮して、会社と社員等の個人との一体性を判断するべきとされています。

 

⑵濫用事例の場合

濫用事例とは、会社の背後にあって支配する者が、違法不当な目的のために会社の法人格を利用する場合を指します。

具体的には、

①背後者が会社を自己の意のままに道具として用い得る支配的地位にあって、法人格を利用している事実(支配の要件)に加え

②違法な目的という主観的要素(目的の要件)

も必要となります。

 

以上、法人格否認の法理でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.08更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムからは、会社法関係の論点をシリーズとして解説していきます。

まずは、手始めに一人会社から初めます。

 

1.一人会社が認められるか

まず、そもそも、一人会社とはどういう会社でしょうか?

一人会社とは、その名の通り、会社の構成員が一人である会社のことをいいます。

かつては、会社も社団法人であり、構成員が複数人いることが必要であるという議論もありましたが、一人会社を認める実益は大きく、これを認めても特段の不都合がないことから、現在では一人会社を認めることに異論はありません。

 

2.一人会社の株主総会の招集手続

株式会社では、株主総会には招集手続が必要であるとされています(会社法299条等)。

それでは、一人会社でも株主総会の招集手続を履践することが必要なのでしょうか?

そもそも、招集手続の趣旨は、株主に総会への出席の機会を確保し、また準備のための時間的余裕を与えることにあるとされています。

そうだとすると、株主全員が総会の開催に応じている場合には、その利益を放棄していると考えることができます。

したがって、一人会社では、構成員が一人である以上、原理的に株主全員が株主総会の開催に応じている場合に当たるといえるため、株主総会を開催するに当たって招集手続は不要であると考えられています。

 

3.一人会社の承認を欠く利益相反取引

一人会社の一人株主が(代表)取締役で、この一人会社が取締役会設置会社である場合、一人会社と当該取締役が利益相反取引を行ったとすると(取締役個人の不動産を一人会社が買い受けた場合など)、このような場合でも、会社法365条1項の取締役会の承認が必要となるのでしょうか。

そもそも、会社法356条1項2号・3号及び同法365条1項の趣旨は、取締役の権限濫用を防ぎ、もって会社の利益を確保することにあるとされています。

そうだとすると、実質的な会社の利益の帰属主体たる株主全員が承諾しているのならば、取締役会の承認は不要としてもよいと解釈できます。

したがって、一人株主の場合には、その一人株主が利益相反取引を承認しているとみなされるため、利益相反取引に際し、取締役会の決議は不要であると考えられています。

しかし、当該取締役(一人株主)は、善管注意義務違反・忠実義務違反等は別途問題になり得るため、かかる利益相反取引により、第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)を負う可能性があるので注意が必要です。

 

4.一人会社の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡

それでは、一人会社が譲渡制限会社である場合、一人株主が全株式を譲渡した場合はどうなるのでしょうか?

非公開会社である以上、会社の承認が必要となるのでしょうか?

そもそも、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあるとされています。

そうだとすると、一人株主が全株式を譲渡した場合、株主が一人しかいないため、他の株主の利益保護が問題となる余地はありません。

したがって、非公開会社である一人会社の一人株主が全株式を譲渡する場合、会社の承認は不要であると解されています。

 

以上で、会社法論点解説シリーズの「一人会社」でした。

次回も、会社法の論点について解説していきます。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.07更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊で弁護士をやっております、葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

さて、今回は、離婚の際に、どのようにして親権者が定まるのか、親権者指定の判断基準について簡潔に述べたいと思います。

 

1.親権者指定の基本方針

裁判実務では、親権者を指定する際、

・過去の養育状況

・現在の監護養育状況

・将来の監護養育の計画

の3つの要素を勘案して、総合的に子の福祉に沿うのかを判断しています。

以上が、親権者指定の際の基本方針となります。

やはり、諸般の事情を総合的に考慮して、「子にとって何が一番幸せか」を判断することになります。

以下、より具体的な考慮要素をみていきます。

 

2.監護の継続性維持の原則・主たる養育者優先の原則

一方当事者の下で一定期間以上平穏に生活している場合、現状を尊重するのが原則とされています(もちろん、例外もあります)。

そして、この考慮要素は、出生から現在に至るまでの全体から検討されるべきとされており、従前の主たる養育者が現在の監護権者ではない場合、子の発達段階によっては、従前の主たる養育者を優先すべき場合もあります。

また、子の現在の環境への適応状況も考慮されるべきであるとされています。

 

3.乳幼児期における母性優先の原則

一般的に、乳幼児期においては、母親が優先されると考えられていますが、この「母性」優先の原則を機械的に当てはめるのは妥当ではありません。

あくまで、母性的な役割を持つ監護権者を優先するという趣旨と捉えるべきです。

例えば、父側に有力な監護補助者(祖父母等)がいる場合など、父親側が母性的な役割を果たしうる場合も多く存在します。

 

4.子の意思の尊重の原則

子の年齢及び発達の程度に応じて、子の意思を尊重しなければならないとされています。

一応の目安としては、10歳前後からは、ある程度考慮されています。

なお、明確に意思を表明できるかなど、子の発達段階に応じた適切な評価が必要です。

 

5.兄弟姉妹不分離の原則

一般的に、兄弟姉妹の親権を分属することが「子の福祉」に適うものとは言いがたいことから、兄弟姉妹は同一の親権者を指定すべきといえますが、これは、補充的な原則にとどまり、諸般の事情から親権を分属せざるを得ない場合もあり得ます。

 

6.面会交流に対する寛容性重視の原則

親権者になった場合に、非親権者と子の面会交流を認める意向を有しているかという基準です(いわゆる、フレンドリーペアレントルール)。

一般的に言って、面会交流に対して積極的な方が、「子の福祉」の観点からして望ましいと思われますが、これも決定的な基準ではなく、あくまで一つの要素に過ぎません。

 

7.その他の事情

・親権者側の事情

親権者の適格性として、監護能力(監護意欲・能力、健康、性格、経済力、愛情等)、監護補助者の有無などが考慮されます。

・子の事情

心身の発育状況、環境変化への適用能力、健康状態、情緒安定、年齢、兄弟関係などが考慮されます。

 

8.総合考慮

以上の要素を総合考慮して、父母のうち、どちらを親権者に定めるのが「子の福祉」に適うかという観点から判断されます。

したがって、上記要素のうちこの要素が存在すれば親権を取れる、などという形式的な判断は不可能であり、子の幸せを基準とした総合的な判断がされているのです。

 

以上が親権者の指定に関する判断基準の概要です。

子の親権者の指定の問題や、離婚等でお悩みの場合には、弁護士葛巻にお任せください。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.04更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊で弁護士をやっております、葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、前回のコラムでも紹介した、「有責配偶者からの離婚請求」について解説していこうと思います。

 

1.離婚原因があっても離婚が認められない場合がある

前回のコラムで説明した民法770条1項条の離婚原因が存在したとしても、

離婚請求者側が有責配偶者であり、このような配偶者からの離婚請求が信義則に反する場合には、離婚請求が認められません。

 

2.有責配偶者の意義

有責配偶者とは、夫婦関係の破綻に専ら又は主として責任のある配偶者であるとされており、具体的には、不貞行為を行った配偶者等が典型例とされています。

すなわち、離婚の原因を作った配偶者が離婚請求をするのは、

相手方からすれば、いわば「踏んだり蹴ったり」であって、

有責配偶者の離婚請求を一定程度制限しようとするのが、この法理の趣意となります。

 

3.信義則違反の判断基準

それでは、このような有責配偶者からの離婚請求が信義則に反するとされ、離婚請求が認められないのは、どのような場合でしょうか?

判例上、この判断には

・有責配偶者の責任の態様・程度

・相手方の婚姻継続の意思

・請求者に対する感情

・別居後の双方の状況、

・離婚となった場合の相手方及び子の状況等

・時の経過がこれらの諸事情に与える影響

等が考慮されなければならないとされています。

特に、具体的には

➀夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期に及んでいるか否か

②夫婦間に未成熟の子が存在するか否か

③相手方が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を要求することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存在するか否か

といった諸点が総合的に考慮されなければならないとされています。

なお、あくまで、総合判断なので、上記➀~③の事情は特に考慮される事情ではありますが、不可欠な事実というわけではありません。

例えば、裁判例の中には、②の未成熟の子が存在していても、離婚請求が認められた例もありますし、

②・③の有無を考慮することなく離婚請求が認められた例もあるため、形式的に上記➀~③の要素をあてはめて結論を導くことはできないのです。

結局は、➀~③の事情が中心的な要素となるものの、それ以外の様々な事情を総合的に考慮して、有責配偶者からの離婚請求が信義則に反するのか否かを判断することになります。

 

4.各3要素の留意点

また、参考までに、中心的なファクターである上記➀~③の各要素について、どのよう事情を考慮して判断されているのかについて簡単に説明しようと思います。

まず、➀の別居期間ですが、

別居期間は、年齢及び同居期間との数量的な対比に加えて、別居後の時の経過が当事者双方についての諸事情に与える影響や、離婚を請求されている側の有責性の有無・程度をも考慮して判断されることに注意する必要があります。

次に、②の未成熟の子の有無ですが、

親の監護を受ける未成熟の子がいる場合であっても、子の精神的な成熟度、不要を要しなくなるまでに要する期間の長短、離婚後に予想される監護体制等諸般の事情に鑑み、離婚請求を認めることが子の利益及び福祉に悪影響を及ぼさないのであれば、有責配偶者の離婚請求でも認められる余地があると解釈されています。

最後に、③の特段の事情ですが、

この判断の中心は経済的な苛酷状態であるとされています。

裁判例において考慮されているのは、離婚給付の予定や実効性といった離婚給付に関する諸事情、離婚請求をされた相手方配偶者の収入資産の状態や離婚後の経済的安定度、離婚請求者による婚姻費用の分担、離婚請求された相手方配偶者が離婚請求名義の住居に居住している場合の居住関係、相続権・公的扶助受給権の喪失といった事情です。

このことからも明らかなように、➀~③の要素についても形式的な判断はなされていないのです。

 

5.婚姻関係破綻後の不貞行為にはご注意

以上のように、有責配偶者からの離婚請求は制限される可能性があるのですが、

有責行為(例えば、不貞行為)の時点において、既に夫婦関係が破綻していた場合には、上記法理は適用できません。

すなわち、有責配偶者の離婚請求が排斥されるためには、離婚請求者の有責行為が婚姻関係の破綻に原因を与えたという因果関係が必要であり、

有責行為が婚姻関係の破綻後に生じたときは、有責配偶者とはいえない、とされているのです。

したがって、有責行為と婚姻関係の破綻の先後関係が非常に重要になるので、この点が争点になる場合には、有責行為の開始時点に、婚姻関係が破綻していたのか否かということに関する事実を積み上げていく必要があります。

 

以上で、有責配偶者の離婚請求についての解説を終わります。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.01更新

皆様こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、法律上の離婚原因、特に民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」の判断基準について簡潔に述べたいと思います。

 

1.法律上の離婚原因(民法770条第1項)

まず、法律上の離婚原因は、以下のとおりです。

➀配偶者に不貞な行為があったとき

②配偶者から悪意で遺棄されたとき

③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき

④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき

⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき

とされています。

そして、現在の通説的な見解によれば、➀~④は⑤の例示に過ぎないとされています(一元説)。

つまり、法律上の離婚原因は、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無に集約されていることになります。

それでは、➀~④以外の事情に基づく「婚姻を継続し難い重大な事由」とは何なのか?

本コラムではこの点を明らかにしようと思います。

 

2.⑤「婚姻を継続し難い重大な事由」の意義

一般的な見解によると、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が不治的に破綻している場合をいうものと解されています。

そして、「破綻」とは、ⅰ夫婦としての信頼、絆が完全に切れたこと(主観的側面)、ⅱ回復の見込みがないこと(客観的な側面)の2つの要件が認められる夫婦の状態を指すとされています。

 

3.具体的な要素

では、上記ⅰ・ⅱを構成する要素としては、どのような事情があるかというと、代表的な裁判例で考慮された要素を簡略にまとめると以下のとおりとなります。

・長期間の別居

・暴行、虐待、重大な侮辱

・不労・浪費

・犯罪行為

・過度な宗教活動

・精神障害

・性行不能

・性格の不一致

などが挙げられます。実際の訴訟では、これらの要素を総合考慮して、婚姻を継続し難い重大な事由が存在するか否かが判断されます。

なお、上記破綻を生じた原因は、当事者双方又は一方に有責事由がある場合に限ると解する必要はないとされていることから、

被告が無責であっても、原告から婚姻を継続し難い重大な事由を主張して離婚を請求することができるとされています。

 

4.有責配偶者からの離婚請求にはご注意を

ただし、有責配偶者(夫婦関係の破綻に専ら又は主として責任のある配偶者=例えば、不貞行為を行った配偶者)からの離婚請求については、

信義則違反として離婚請求が認められないこともありますので、この点は注意する必要があります。

※有責配偶者の離婚請求については、後日、コラムで書きたいと思います。

 

以上が、離婚原因の判断基準でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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