弁護士葛巻のコラム

2018.02.26更新

皆様こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は株主総会の議事運営に関して代表的な論点を整理したいと思います。

 

1.定款による代理人の資格制限

まずは、定款によって株主の議決権の行使資格を制限することができるのか否かについて検討します。

会社法310条は代理人による議決権行使を認めていますが、これを定款によって制限することは可能なのでしょうか。

例えば、代理人の資格を株主に限りことは許されるのか否かが問題となります。

そもそも、定款による代理人資格制限の趣旨は、株主以外の第三者が総会に参加することにより議事が攪乱されるのを防止し、会社の利益を保護する点にあります。

この趣旨からすれば、定款による代理人資格の制限は合理的な理由に基づく相当程度の制限であれば有効であると解されるでしょう。

もっとも、代理人による議決権行使は、株主に議決権行使を容易にし、その機会を確保するという観点から重要な権利であるから、会社利益が害される危険性が低く、議決権の代理行使を認めなければ事実上株主の議決権行使の機会が奪われてしまう場合には、定款規定の効力が及ばないと考えるべきです。

具体例で挙げた定款による代理人資格を制限したのは、株主以外の第三者によって株主総会が攪乱されることを防止するという合理的な理由があると思われます。

また、株主であれば代理行使が可能であり、全面的な制限がされているのではなく、相当程度の制限といえます。

よって、本件定款規定は有効と考えられますし、実際にこのような定款規定はしばしば目にするところです。

他方で、弁護士や株主が会社である場合の従業員など、株主総会の運営をかく乱させるおそれがおよそ存在しないと考えられる場合には、本件定款規定の効力は及ばず、かかる代理人に議決権を行使させないことは違法になると考えられます。

※(しかし、株式会社がその都度確認し個別具体的に検討するとなると、明確な基準がないままに実質的な判断を迫られ、その結果、受付事務を混乱させ、円滑な株主総会の運営を阻害するおれがあります。

よって、弁護士のような株主総会を攪乱するおそれのないと思われる者であっても、一律に議決権行使を拒否することは許されると解釈することも一定の理由があります。ここは解釈の分かれるところです。)
 

2.従業員株主を優遇する措置について

次に検討するのは、従業員株主を株主総会において厚遇することが適法とされるのか否かについてです。

例えば、従業員株主を優先的に入場させ、前列に着席させるなどの措置は、議事運営の方法(315条)として適切でしょうか。

⑴ 平等原則からの視点

そもそも、会社は同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由がない限り同一の取扱いをすべきであって、従業員株主を一般株主よりも先に入場させ、前列に座らせた会社の措置は合理的な理由がなく、適切とは言いがたいでしょう(109条1項参照)。

しかし、議事運営が違法となるか否かは、株主権の行使が妨げられ、株主としての法的利害の侵害があったか否かによって決せられるべきです。

そのため、決議方法の法令違反(又は著しく不公正)か否かの判断は、合理的な理由(必要性・相当性)があるか否かによって決せられることになるでしょう。

⑵ 議事整理権限からの視点

そもそも、議長は議事整理権限(315条)を有していますが、この権限は善管注意義務(330条・民644条)に沿って行使されなければならないのが当然の前提です。

多数の株主が参加する株主総会においては、合理的な審議を行うためには議場の秩序を維持することが必要であり、その一環として従業員に議事進行への協力を求めることも、相当な範囲にとどまるのであれば認められるものと解釈されています。

そのため、上記具体例の程度の措置であれば、議長の議事整理権限の範疇と解釈することも可能でしょう。

ただし、議長の議事整理権限も前述の通り、善管注意義務に沿って行使されなければなりませんし、不相当な権限行使は違法と解されます。

もっとも、従業員株主による「異議なし」等の発生が一般株主による質問や意見表明を抑圧する程度に至る場合には、相当性を欠く議事進行が行われたものとして取消事由を構成するものと考えるべきでしょう。
 

3.株主総会会場での動議の範囲

最後に、株主総会での動議の範囲について検討します。

決議事項の内容に関する動議として株主が提出できるのは、取締役会設置会社においては原則として議案の修正動議のみであり(304条本文・309条5項本文)、招集通知に記載のない事項を動議で議決することは同項に違反します。

これに対して、議長不信任、検査役の選任・会計監査人の出席要求(309条5項ただし書参照)、総会の延期・続行の提案等、議事進行に関する動議は、議事運営に関する手続的なものとして、会議の目的として予め株主に通知がなされていなくても、提出することができるため、同項に違反しません。

また、議事運営に関する事項のうち、議長不信任の動議は、議事の公正に関わるので、その動議が出た場合は必ず裁決しなければならないと解されています。

この場合、不信任の動議の対象とされた議長が、当該動議について議長を交代する必要があるか問題となりますが、

①議長自体は、議決権を行使するわけではないこと、

②議長が、具体的に不公正な取り扱いをした場合に決議取消事由とすれば、株主保護としては十分であること、

③不信任の動議の度に議長が後退しなければならないとすると、濫用のおそれがあること、

の3点からすると、議長の交代は不要であると解釈されています。

なお、株主総会会場で株主から株主総会目的事項について修正動議がなされた場合、議決権行使書面で会社側提案に賛成した票をどのように取り扱うべきかが問題となります。

この点、株主の修正動議により提出された議題・議案の要領が招集通知に記載されれば、議決権行使書面により議決権を行使した株主が異なる判断をした可能性はあるが、その点は、決議方法の法令違反として決議取消事由になると解すれば十分であり、議決権行使書面で会社側提案に賛成した票を無効とする必要はなく、会社側提案賛成票として扱うべきでしょう。

 

以上で、株主総会における議事運営に関する諸論点の解説でした。

株主総会の指導・運営、企業法務一般に関するご相談は、弁護士の葛巻瑞貴にお任せ下さい。

ご予約は以下の予約フォームから承っております。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2018.02.26更新

皆様こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は株主総会の議事運営に関して代表的な論点を整理したいと思います。

 

1.定款による代理人の資格制限

まずは、定款によって株主の議決権の行使資格を制限することができるのか否かについて検討します。

会社法310条は代理人による議決権行使を認めていますが、これを定款によって制限することは可能なのでしょうか。

例えば、代理人の資格を株主に限りことは許されるのか否かが問題となります。

そもそも、定款による代理人資格制限の趣旨は、株主以外の第三者が総会に参加することにより議事が攪乱されるのを防止し、会社の利益を保護する点にあります。

この趣旨からすれば、定款による代理人資格の制限は合理的な理由に基づく相当程度の制限であれば有効であると解されるでしょう。

もっとも、代理人による議決権行使は、株主に議決権行使を容易にし、その機会を確保するという観点から重要な権利であるから、会社利益が害される危険性が低く、議決権の代理行使を認めなければ事実上株主の議決権行使の機会が奪われてしまう場合には、定款規定の効力が及ばないと考えるべきです。

具体例で挙げた定款による代理人資格を制限したのは、株主以外の第三者によって株主総会が攪乱されることを防止するという合理的な理由があると思われます。

また、株主であれば代理行使が可能であり、全面的な制限がされているのではなく、相当程度の制限といえます。

よって、本件定款規定は有効と考えられますし、実際にこのような定款規定はしばしば目にするところです。

他方で、弁護士や株主が会社である場合の従業員など、株主総会の運営をかく乱させるおそれがおよそ存在しないと考えられる場合には、本件定款規定の効力は及ばず、かかる代理人に議決権を行使させないことは違法になると考えられます。

※(しかし、株式会社がその都度確認し個別具体的に検討するとなると、明確な基準がないままに実質的な判断を迫られ、その結果、受付事務を混乱させ、円滑な株主総会の運営を阻害するおれがあります。

よって、弁護士のような株主総会を攪乱するおそれのないと思われる者であっても、一律に議決権行使を拒否することは許されると解釈することも一定の理由があります。ここは解釈の分かれるところです。)
 

2.従業員株主を優遇する措置について

次に検討するのは、従業員株主を株主総会において厚遇することが適法とされるのか否かについてです。

例えば、従業員株主を優先的に入場させ、前列に着席させるなどの措置は、議事運営の方法(315条)として適切でしょうか。

⑴ 平等原則からの視点

そもそも、会社は同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由がない限り同一の取扱いをすべきであって、従業員株主を一般株主よりも先に入場させ、前列に座らせた会社の措置は合理的な理由がなく、適切とは言いがたいでしょう(109条1項参照)。

しかし、議事運営が違法となるか否かは、株主権の行使が妨げられ、株主としての法的利害の侵害があったか否かによって決せられるべきです。

そのため、決議方法の法令違反(又は著しく不公正)か否かの判断は、合理的な理由(必要性・相当性)があるか否かによって決せられることになるでしょう。

⑵ 議事整理権限からの視点

そもそも、議長は議事整理権限(315条)を有していますが、この権限は善管注意義務(330条・民644条)に沿って行使されなければならないのが当然の前提です。

多数の株主が参加する株主総会においては、合理的な審議を行うためには議場の秩序を維持することが必要であり、その一環として従業員に議事進行への協力を求めることも、相当な範囲にとどまるのであれば認められるものと解釈されています。

そのため、上記具体例の程度の措置であれば、議長の議事整理権限の範疇と解釈することも可能でしょう。

ただし、議長の議事整理権限も前述の通り、善管注意義務に沿って行使されなければなりませんし、不相当な権限行使は違法と解されます。

もっとも、従業員株主による「異議なし」等の発生が一般株主による質問や意見表明を抑圧する程度に至る場合には、相当性を欠く議事進行が行われたものとして取消事由を構成するものと考えるべきでしょう。
 

3.株主総会会場での動議の範囲

最後に、株主総会での動議の範囲について検討します。

決議事項の内容に関する動議として株主が提出できるのは、取締役会設置会社においては原則として議案の修正動議のみであり(304条本文・309条5項本文)、招集通知に記載のない事項を動議で議決することは同項に違反します。

これに対して、議長不信任、検査役の選任・会計監査人の出席要求(309条5項ただし書参照)、総会の延期・続行の提案等、議事進行に関する動議は、議事運営に関する手続的なものとして、会議の目的として予め株主に通知がなされていなくても、提出することができるため、同項に違反しません。

また、議事運営に関する事項のうち、議長不信任の動議は、議事の公正に関わるので、その動議が出た場合は必ず裁決しなければならないと解されています。

この場合、不信任の動議の対象とされた議長が、当該動議について議長を交代する必要があるか問題となりますが、

①議長自体は、議決権を行使するわけではないこと、

②議長が、具体的に不公正な取り扱いをした場合に決議取消事由とすれば、株主保護としては十分であること、

③不信任の動議の度に議長が後退しなければならないとすると、濫用のおそれがあること、

の3点からすると、議長の交代は不要であると解釈されています。

なお、株主総会会場で株主から株主総会目的事項について修正動議がなされた場合、議決権行使書面で会社側提案に賛成した票をどのように取り扱うべきかが問題となります。

この点、株主の修正動議により提出された議題・議案の要領が招集通知に記載されれば、議決権行使書面により議決権を行使した株主が異なる判断をした可能性はあるが、その点は、決議方法の法令違反として決議取消事由になると解すれば十分であり、議決権行使書面で会社側提案に賛成した票を無効とする必要はなく、会社側提案賛成票として扱うべきでしょう。

 

以上で、株主総会における議事運営に関する諸論点の解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2018.02.09更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、契約書のレビュー(リーガル・チェック)について、少し考えを書こうと思います。

 

1.契約書の裁判所における扱い

そもそも、契約書というのは、ある契約・法律行為が行われたことを示す最も信頼の置ける証拠です。

厳密な話しをすると、処分証書(当該書面に法律行為が記載されている文書)に署名と押印がなされている場合、

二段の推定が働いて(民事訴訟法2228条4項)、特段の事情が無い限り、当該処分証書(契約書)に記載されている通りの法律行為の存在が立証されます。

※なお、処分証書の定義として、いわゆる「よってされた説」も非常に有力ではありますが、ここでは深く立ち入りません(後日コラムとして書く予定です)。

そうすると、何も分からずサインと判子を押してしまうと、契約内容を覆すことはとても困難となるのです。

事後的に、契約の内容を争うのは困難となりますので、事前のチェックがとても重要になります。

 

2.弁護士の依頼するメリット

そのため、紛争を予防する観点からすれば、弁護士という法律専門家のチェックを経ることは非常に重要です。

契約書は専門用語が使用される場合がほとんどですし、クライアントご自身でチェックするのは非常に労力を使います。

そもそも、契約書の内容が理解できない場合もあるかもしれません。

そんなときは、やはり弁護士の出番です。

私も、契約書のリーガルチェックの案件を多く担当していますが、「どうしてこんなに不公平な文言になっているのか」、と驚愕することもしばしばですので、こうした不合理な文言をそのままにして、契約書に署名と押印をしてしまうと大変なことになってしまうのです。

弁護士ならば、訴訟(紛争)を見据えて、適切な修正を入れることが可能ですし、弁護士が間に入ることで、相手方との交渉もスムーズにいく場合もあります。

しかも、費用としても、単発のご依頼であればリーズナブルな金額でお受けすることができます。

 

3.予防法務の重要性

企業にせよ、個人にせよ、契約周りをきちんとしておくことは、本業に専念する上で重要です。

ご自身のやりたいことが法務の面で足を引っ張ってしまっては非常にもったいないです。

弁護士にご依頼頂ければ、安心して本業に取り組むことができるでしょう。

この精神的なメリットは案外バカにできないものです。

契約書関係でお困りであれば、一度、お気軽にご相談下さい。

ご予約は、以下の予約フォームでお申し付けいたします。

契約書の作成・チェック以外でも、企業法務関係のご相談もお待ちしております。

 

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2018.02.02更新

皆様、こんにちは。

青山、赤坂、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回の会社法論点シリーズのコラムは、株主提案権に関する論点をまとめて解説します。

 

 

1.株主提案権の範囲

そもそも、株主提案権の範囲をいかに解すべきでしょうか?

 

例えば、取締役会設置会社では、株主総会は招集通知において株主総会の目的事項とされた事項しか決議できないこととの関係から(会社法309条5項)、少数株主権の議題提案は株主総会の日の8週間前に行わなければならないとされています(303条2項後段)。

 

そして、取締役会設置会社では、株主の議題提案権の対象となる「株主総会の目的である事項」は、会社法及び定款で取締役会設置会社の株主総会の決議事項としているものに限定されています。

よって、これ以外の事項に関する議題提案権を行使することはできないことになります。

 

もっとも、「定款の一部変更の件」という議題提案と、例えば「○○を株主総会の決議事項とする」という趣旨の定めを定款に追加する内容の議案の要領を株主に通知することの請求を行い(302条2項、305条1項)、定款変更提案が株主総会特別決議(309条2項11号)で可決されることを条件に、○○についての議案提案を同時に行えば、1回の株主総会によって目的の決議事項を実現することができます。
 

 

2.議題提出権等(303条2項)の株式継続保有要件について

 

では、株主が議題提出権等を行使する際、303条2項の株式継続保有要件(取締役会設置会社であれば6ヶ月)をいつまで充たし続けなければならないか。

議題提出権の行使日と株主としての基準日が前後する可能性があることから問題となります。

 

この点、①議決権のない者に議題提出権のみ認めるのは不合理であるので、行使日が基準日よりも前の場合には、基準日を終期とすべきであり、

②保有期間の始期が行使日から遡って6か月前であることからすれば、その途中で基準日が到来したとしても終期は行使日までと解するのが妥当と思われます。

 

したがって、議題提出権等の行使日と基準日のいずれか遅い日まで株式継続保有要件を具備している必要があると解すべきです。
 

 

3.株主提案権の提案できる議題・拒絶事由

 

そもそも、取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項は会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限定されるところ(295条2項)、株主総会の専決事項以外の決議事項を定款で取締役会の決議事項と定めた場合には、当該事項は株主総会の決議事項でなくなる結果、株主提案権の対象から排除されることとなります。

したがって、株主総会の決議事項について、取締役会で決議する旨の定款が定め(例:459条1項)のみが定められている場合には、当該事項は株主総会の決議事項でなくなるわけではないのに対して(よって、株主提案権の行使が可能)、当該定款の定めのある会社が、当該事項を株主総会の決議によっては定めない旨を定款で定めた場合には(例:460条1項)、当該事項は株主総会の決議事項ではなくなる結果、株主提案権の対象から排除されるのです。

この場合、株主提案を行うためには、後者の定款の定めを削除する旨の定款変更の株主提案も併せて行うことが必要となります。

 

※「実質的に同一の議案」(305条4項)の意義

 

なお、305条4項の「実質的に同一の議案」の意義についても、多少の議論がありますが、形式上は同一の議案であっても、前回に提案したときと、その背景や条件が異なり、提案の実質的な意味が異なっていると考えられる場合には、実質的に同一の議案とはいえないものと解されています。
 

 

4.株主の議題提出権等の行使を無視して、株主提案の議題・議案の要領が記載されていない招集通知の適否

 

そもそも、取締役は、本来、株主の議題提出権等に応じて、招集通知に議題及び議案の要領を記載する義務を負っているところ、この義務を怠った場合に招集通知自体が不適法となるとすると、他の議題・議案についても決議取消事由が生ずることとなり、必要以上の法効果を与えることとなると思われます。

 

そこで、招集通知自体は有効であると解した上で、株主の議題・議案を記載しなかったために、その議題が株主総会の目的とならなかったことに関しては、取締役に過料を課す(976条19号・2号)ことで対応するべきでしょう。

 

そして、その議案と異なる議案が決議された場合には、決議方法の法令違反として決議取消事由(831条1項1号)になることとして、その実効性を確保するべきです。

 

もっとも、議題を招集通知に記載しなかったことは、その議題が株主総会で決議できなくなるだけで、株主総会で決議された事項について決議方法に法令違反が生ずるものではないので、取消事由にはならないので注意が必要です。
 

 

5.書面投票制度と株主提案権

 

そもそも、書面投票を採用する会社では、議案がなければ株主は書面によって議決権を行使することができないから、議題のみの株主提案はできないものと解されています。

 

一方で、株主が株主総会の8週間前までに、取締役解任の議題とともに、Aを解任するという議案の要領を株主に通知すべきことの請求を行った場合には、これを受けた取締役は、当該議題提案を採用し、当該議案について株主総会参考書類に所定の事項を記載し、議決権行使書面には、A解任議案について賛否を記載する欄を設けなければなりません。

 

その場合、株主は、当該定時株主総会の会場で、A以外の取締役の解任の議案を提出することが可能になります。

なぜなら、株主は、株主総会の会場において、議題について議案を提出することができるところ(304条)、株主提案により取締役の解任が当該定時株主総会の議題となったからです。

 

そうすると、会場においてAに加えてBも解任するという提案がなされた場合、書面投票により議決権を行使した株主をどのように扱うべきでしょうか。

 

この点、書面投票を行った株主は、Aの解任議案については賛否の判断を行っているが、Bの解任議案については賛否の判断をしていないので、欠席(定足数に算入されず)又は棄権(定足数に算入される)と扱わざるを得ません。

しかし、欠席扱いとすると、定足数要件が緩和されている場合(341条参照)、株主総会に出席している比較的少数の株主の議決権によって解任等の決議が成立し得ることになって妥当でないため、棄権と扱うべきでしょう。
 

 

6.取締役会による会社提案の撤回-議場での株主提案

 

(※前提として、取締役会が議題・議案を事後的に撤回することは、業務執行行為の一環として、権利濫用等の特段の事情がない限り、許されます(298条4項参照)。)

 

取締役会設置会社は、株主総会の目的事項(298条1項2号)以外の事項について、決議することができません(309条5項)。

そのため、仮に、取締役会の決議によって既に招集通知に記載された会社提案を撤回したとすると、かかる議題・議案は株主総会の目的事項ではなくなる結果、株主は株主総会の議場においても、議案提案権(304条本文)を行使することができなくなってしまいます。

 

そもそも、309条5項の趣旨は、所有と経営の分離が予定され、株主が経営に関わらないことが想定されている取締役会設置会社においては、株主は招集通知に記載されている議題を確認してから出席するか否かを決めるところ、かかる議題以外の事項に関する議決を有効とすることは株主にとって不意打ちとなるからであるとされています。

 

そうだとすれば、一度招集通知において議題を株主総会の目的事項として記載したのであれば、株主は当該目的事項に関する検討・準備をすることができたのであるから、取締役会が事後的に当該目的事項についての議案を撤回したとしても、再び株主総会で当該目的事項に関する議案を審議することは株主にとって不意打ちとはならないものと思われます。

 

よって、309条5項の趣旨を没却することにはならないから、株主が議場において当該目的事項に関する議案の提案をすることは許されるべきでしょう。

 

以上が、株主提案権関連の論点の整理と解説でした。

株主総会の運営、企業法務一般(契約書のレビューも含む)のご相談、ご依頼、は弁護士の葛巻にお任せ下さい。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2018.02.02更新

皆様、こんにちは。

青山、赤坂、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回の会社法論点シリーズのコラムは、株主提案権に関する論点をまとめて解説します。

 

 

1.株主提案権の範囲

そもそも、株主提案権の範囲をいかに解すべきでしょうか?

 

例えば、取締役会設置会社では、株主総会は招集通知において株主総会の目的事項とされた事項しか決議できないこととの関係から(会社法309条5項)、少数株主権の議題提案は株主総会の日の8週間前に行わなければならないとされています(303条2項後段)。

 

そして、取締役会設置会社では、株主の議題提案権の対象となる「株主総会の目的である事項」は、会社法及び定款で取締役会設置会社の株主総会の決議事項としているものに限定されています。

よって、これ以外の事項に関する議題提案権を行使することはできないことになります。

 

もっとも、「定款の一部変更の件」という議題提案と、例えば「○○を株主総会の決議事項とする」という趣旨の定めを定款に追加する内容の議案の要領を株主に通知することの請求を行い(302条2項、305条1項)、定款変更提案が株主総会特別決議(309条2項11号)で可決されることを条件に、○○についての議案提案を同時に行えば、1回の株主総会によって目的の決議事項を実現することができます。
 

 

2.議題提出権等(303条2項)の株式継続保有要件について

 

では、株主が議題提出権等を行使する際、303条2項の株式継続保有要件(取締役会設置会社であれば6ヶ月)をいつまで充たし続けなければならないか。

議題提出権の行使日と株主としての基準日が前後する可能性があることから問題となります。

 

この点、①議決権のない者に議題提出権のみ認めるのは不合理であるので、行使日が基準日よりも前の場合には、基準日を終期とすべきであり、

②保有期間の始期が行使日から遡って6か月前であることからすれば、その途中で基準日が到来したとしても終期は行使日までと解するのが妥当と思われます。

 

したがって、議題提出権等の行使日と基準日のいずれか遅い日まで株式継続保有要件を具備している必要があると解すべきです。
 

 

3.株主提案権の提案できる議題・拒絶事由

 

そもそも、取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項は会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限定されるところ(295条2項)、株主総会の専決事項以外の決議事項を定款で取締役会の決議事項と定めた場合には、当該事項は株主総会の決議事項でなくなる結果、株主提案権の対象から排除されることとなります。

したがって、株主総会の決議事項について、取締役会で決議する旨の定款が定め(例:459条1項)のみが定められている場合には、当該事項は株主総会の決議事項でなくなるわけではないのに対して(よって、株主提案権の行使が可能)、当該定款の定めのある会社が、当該事項を株主総会の決議によっては定めない旨を定款で定めた場合には(例:460条1項)、当該事項は株主総会の決議事項ではなくなる結果、株主提案権の対象から排除されるのです。

この場合、株主提案を行うためには、後者の定款の定めを削除する旨の定款変更の株主提案も併せて行うことが必要となります。

 

※「実質的に同一の議案」(305条4項)の意義

 

なお、305条4項の「実質的に同一の議案」の意義についても、多少の議論がありますが、形式上は同一の議案であっても、前回に提案したときと、その背景や条件が異なり、提案の実質的な意味が異なっていると考えられる場合には、実質的に同一の議案とはいえないものと解されています。
 

 

4.株主の議題提出権等の行使を無視して、株主提案の議題・議案の要領が記載されていない招集通知の適否

 

そもそも、取締役は、本来、株主の議題提出権等に応じて、招集通知に議題及び議案の要領を記載する義務を負っているところ、この義務を怠った場合に招集通知自体が不適法となるとすると、他の議題・議案についても決議取消事由が生ずることとなり、必要以上の法効果を与えることとなると思われます。

 

そこで、招集通知自体は有効であると解した上で、株主の議題・議案を記載しなかったために、その議題が株主総会の目的とならなかったことに関しては、取締役に過料を課す(976条19号・2号)ことで対応するべきでしょう。

 

そして、その議案と異なる議案が決議された場合には、決議方法の法令違反として決議取消事由(831条1項1号)になることとして、その実効性を確保するべきです。

 

もっとも、議題を招集通知に記載しなかったことは、その議題が株主総会で決議できなくなるだけで、株主総会で決議された事項について決議方法に法令違反が生ずるものではないので、取消事由にはならないので注意が必要です。
 

 

5.書面投票制度と株主提案権

 

そもそも、書面投票を採用する会社では、議案がなければ株主は書面によって議決権を行使することができないから、議題のみの株主提案はできないものと解されています。

 

一方で、株主が株主総会の8週間前までに、取締役解任の議題とともに、Aを解任するという議案の要領を株主に通知すべきことの請求を行った場合には、これを受けた取締役は、当該議題提案を採用し、当該議案について株主総会参考書類に所定の事項を記載し、議決権行使書面には、A解任議案について賛否を記載する欄を設けなければなりません。

 

その場合、株主は、当該定時株主総会の会場で、A以外の取締役の解任の議案を提出することが可能になります。

なぜなら、株主は、株主総会の会場において、議題について議案を提出することができるところ(304条)、株主提案により取締役の解任が当該定時株主総会の議題となったからです。

 

そうすると、会場においてAに加えてBも解任するという提案がなされた場合、書面投票により議決権を行使した株主をどのように扱うべきでしょうか。

 

この点、書面投票を行った株主は、Aの解任議案については賛否の判断を行っているが、Bの解任議案については賛否の判断をしていないので、欠席(定足数に算入されず)又は棄権(定足数に算入される)と扱わざるを得ません。

しかし、欠席扱いとすると、定足数要件が緩和されている場合(341条参照)、株主総会に出席している比較的少数の株主の議決権によって解任等の決議が成立し得ることになって妥当でないため、棄権と扱うべきでしょう。
 

 

6.取締役会による会社提案の撤回-議場での株主提案

 

(※前提として、取締役会が議題・議案を事後的に撤回することは、業務執行行為の一環として、権利濫用等の特段の事情がない限り、許されます(298条4項参照)。)

 

取締役会設置会社は、株主総会の目的事項(298条1項2号)以外の事項について、決議することができません(309条5項)。

そのため、仮に、取締役会の決議によって既に招集通知に記載された会社提案を撤回したとすると、かかる議題・議案は株主総会の目的事項ではなくなる結果、株主は株主総会の議場においても、議案提案権(304条本文)を行使することができなくなってしまいます。

 

そもそも、309条5項の趣旨は、所有と経営の分離が予定され、株主が経営に関わらないことが想定されている取締役会設置会社においては、株主は招集通知に記載されている議題を確認してから出席するか否かを決めるところ、かかる議題以外の事項に関する議決を有効とすることは株主にとって不意打ちとなるからであるとされています。

 

そうだとすれば、一度招集通知において議題を株主総会の目的事項として記載したのであれば、株主は当該目的事項に関する検討・準備をすることができたのであるから、取締役会が事後的に当該目的事項についての議案を撤回したとしても、再び株主総会で当該目的事項に関する議案を審議することは株主にとって不意打ちとはならないものと思われます。

 

よって、309条5項の趣旨を没却することにはならないから、株主が議場において当該目的事項に関する議案の提案をすることは許されるべきでしょう。

 

以上が、株主提案権関連の論点の整理と解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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