相談事例

2017.11.24更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

私は、労働問題の相談も日常的に取り扱っておりますが(使用者側が多いです)、例えば、「予備校の講師を辞めさせる場合、労働法上の解雇権濫用法理が妥当するのかどうか。」などの相談が持ちかけられることがあります。

上記の相談事例において、予備校講師等は、雇用契約書を作成しているというケースばかりではなく、業務委託契約を締結しており、形式的に見ると、労働契約ではないことから、労働基準法等の規制が及ばないのではないかとも思われるところです。

 

1.労働者性の判断基準

しかし、契約の法性決定は、形式的に契約書の名称に拘束されるわけではなく、実質的に当事者間の権利義務関係や、契約内容を考慮して、どのような契約なのかということが判断されます。

したがって、業務委託契約書を作成しているからといって、労働契約ではないと強弁することはできず、当事者間の関係性や債務の内容等を吟味して、労働契約に該当するのではないか、労働者に該当するのではないか、ということが検討されるのです。

労働者性の判断基準として考慮される要素としては、一般的に以下の2つの基準に基づいて検討されます。

➀「使用させる=指揮監督下の労働」という労務提供の形態

②「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性(報酬が提供された労務に対応するものであるか否か)

という2つの基準によって検討・判断されることになります(上2つの基準を総称して「使用従属関係」と呼びます)。

そして、➀についてより具体的に検討する下位基準としては、

ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の事由があるか、

イ 業務遂行上の指揮監督があるか

ウ 勤務時間・勤務場所等の拘束性があるか

エ 代替性があるか(本人にかわって他の者が労務を提供することが認められているか、補助者を利用することが認められているか-指揮監督関係の補強要素)

といった、要素が挙げられます。

また、②については、

報酬が時間給として計算されているなど、労働者との差異がない、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、残業した場合には、通常の報酬とは別の手当が支給される等報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される、といった事情がある場合には、使用従属関係を補強することになります。

また、それ以外の事情としても、

ⅰ事業者性の有無

 イ 機械、器具の負担関係(高額な器具を自らの危険と計算で利用している場合には、労働者性を弱める事情です)

 ロ 報酬の額(他の正社員より著しく高額な報酬が支払われている場合には、労働者性を弱める事情となります)

 ハ その他の事情(独自の商号を利用していることなどは、労働者性を弱める事情となります)

ⅱ専属性の程度

 イ 制度上・経済上専属しているか(契約や事実上当該企業に従属している場合には労働者性を補強する事情になります)

 ロ 報酬に生活保障的要素があるか(報酬に固定給部分があり、その額も生計を維持しうる程度のものである場合、労働者性を補強する事情になります)

ⅲその他の事情

 イ 採用、委託等の選考過程が正規従業員の採用とほとんど同様であること

 ロ 報酬を給与所得として源泉徴収していること

 ハ 服務規律を適用していること

 ニ 退職金制度、福利厚生を適用している

等の事情は、労働者性を肯定する補強事由になります。

以上の要素を総合考慮して、労働者性が判断されることになります。

 

2.予備校講師の労働者性

よって、上記基準からすると、予備校講師が労働者に該当するか否かというのは、一概には決めることはできず、ケースバイケースであるということにならざるを得ません。

しかし、多くの予備校において、講義に対する指揮命令関係がある程度あるでしょうし、講義の時間や場所の裁量が講師側には認められないこともほとんどだと思われます。

また、報酬も賃金としての性質が強い場合も多いでしょう。

そうすると、予備校講師が労働者と判断される可能性は一定程度認められると考えて良いでしょう。

実際に、河合塾事件(最三小平成22・4.27)の1審・2審判決では、大要、非常勤講師の出講契約の性質を労働契約としています。

 

3.雇止め法理の類推適用について

では、仮に、予備校講師との契約が労働契約であるとすると、当該講師を辞めさせる場合、雇止めの法理が類推適用されるのでしょうか?

なお、予備校によっては、期間1年の業務委託契約を毎年更新しているケースも散見されるため、雇止めの法理が類推適用された場合、当該講師を解雇することは相当に困難となります。

この点に関して、上記河合塾事件の最高裁判決では、明確に判示しているわけではありませんが、他の裁判例においては、雇用継続の合理的期待が低いことを理由に、雇止め法理の類推適用に消極的な判断が多いです。

そのため、現在の裁判例の傾向としては、雇止めの法理の類推適用に慎重な姿勢が見受けられますが、ケースによっては、通常の雇止め事案と同視しうる事例も考えられますし、理論的に言っても、労働者性を認めるが、雇止めの法理を類推適用しないというのも若干腑に落ちない面もあり、今後の判例の動向には注視する必要があるでしょう。

使用者側としては、いきなり、契約関係を終了させてしまうと、ほぼ間違いなく訴訟に発展すると思われますし、費用対効果の面で賢明な判断ではない可能性もありますので、デリケートな対応が求められる案件であると言えます。

場合によっては、少しずつ、当該講師が担当しているコマ数を減少させるなどの措置も考えられるでしょう。

 

以上で、労働者性の判断が必要な事案(予備校講師について)の紹介と解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.13更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)でございます。

今回の相談事例は、比較的トラブルとなりやすく、訴訟に発展しやすい類型である、マンションや店舗等の不動産の購入・賃貸における契約締結上の過失責任事例です。 

 

1.ケース

どのような事例かというと、例えば、ある企業(A)が、立地条件の良いBの所有する土地建物を賃貸して、何らかの商売を行って収益を得たいと考えて、土地建物の所有者Bに対して、不動産を賃貸させて欲しいと交渉を申し入れたとしましょう。

AはBに対して、契約締結後にAが営む事業の収益から相応の賃料を支払うことを約束し、その代わり、土地や建物をAの事業に適合する仕様に工事する必要があるから、その費用の一部をBに負担して欲しいと申し入れました。

それに対してBは、初期費用の出費は痛いが、契約締結後の賃料収益で十分投下資本は回収できるし、土地や建物を遊ばせておいても仕方ないと考え、Aの申し入れに賛同し、AB間で不動産賃貸借の予約契約などの基本契約が締結されて、Bは、建物等を工事したり、レイアウトを決定したり、インフラの設備を整えたり等、正式な契約の成立に向けて、相当の費用を支出して準備を進めていました(上記賃貸借予約契約上、正式契約締結前にBがインフラ設備や建物の躯対等の工事を担当するよう定められていました)。

しかし、正式な契約の成立間近となって、急にAが他にもっと良い条件の物件が見つかったとして、正式契約をせずに、既に締結していた賃貸借予約契約を解除してしまいました。

この場合、Bは、Aに対して、既に支出している相応の費用や、仮にきちんと契約が成立していた場合の賃料相当額の損害賠償請求はできるのでしょうか?

ケースにおいて、未だ正式な契約が成立されていたわけではないので、将来締結されるであろう契約に基づく債務不履行責任等は請求できそうにありません。

しかし、このようなケースにおいて、Bが何もAに請求できないのはあまりに不合理です。

Bには正式な契約が締結されることに対して相当の期待をしていたはずであり、それは法的に保護されるべきです。

そこで、法的に保護されると解釈できるBの期待権をAが侵害したと考えられる場合には、契約締結上の過失責任として、Aに損害賠償義務が発生するのです。

(なお、契約締結上の過失を債務不履行責任と捉えるのか、不法行為責任と捉えるのかは議論の余地がありますが、実務上は双方主張する場合も多いです。)

 

上記の事例は、かなり簡略化していますが、実際訴訟になる事案は、もっと事実関係が複雑ですし、AB間でもっと詳細なやりとりがなされています。

また、企業側がこのように交渉を不当に破棄する事例のみならず、逆に地主側が別の不動産会社等に土地を売ってしまって、従前交渉していた会社を裏切るケースもありますが、どちらも契約締結上の過失の問題となります。

 

2.契約締結上の過失一般論について

契約締結上の過失責任とは、契約締結準備段階に入った当事者は、相手方に損害を被らせないようにする義務を負い、これに違反して、相手方に損害を負わせた場合、その賠償義務を負うべきという法理です。

そして、契約締結上の過失は、次のように分類されています。

➀交渉破棄型(当事者が一方的に交渉を打ち切り相手方の契約成立への期待を裏切った場合)

②説明義務違反・不当勧誘型(事実に反する説明や不十分な説明により、相手方が本来望まぬ契約を結ばされた場合)

③契約無効・取消し型(契約の無効・取消しにより相手方に無用の支出をさせた場合)

④偶発事故型(契約締結過程で相手方の生命・身体・財産に係る権利等を侵害した場合)

上記のケースでは、契約交渉がある程度成熟するに至って、一方当事者が不当に契約交渉を打ち切った事案ですので、➀の交渉破棄型に該当するでしょう。

事案にもよりますが、契約交渉がかなり大詰めになった段階で、相手方がもはや正式契約に至るであろうと期待するのが当然だといえれば損害賠償請求が認められることになるでしょう。

本件のAもBに対して一定の損害賠償義務を負うものと思われます。

 

3.賠償範囲-履行利益と信頼利益

それでは、その損害賠償の範囲はどこまで認められるでしょうか?

この点、実務上、契約が締結されると信じて支出した費用等のいわゆる信頼利益の賠償(典型的なのは実費相当分です)の賠償に限られ、契約が締結された場合に得られたであろう利益(いわゆる履行利益)の賠償は認められない傾向が強いです(転売利益や本件では、賃料収入等です)。

しかし、この結論が形式的に運用されて良いのでしょうか?

履行利益の賠償は泣き寝入りしなければならないのでしょうか?

以下、少し検討を加えてみます。

 

4.契約締結上の過失の理論に基づく履行利益の賠償

上記で述べたとおり、契約締結上の過失の理論については、損害賠償が認められる範囲に関し、信頼利益に限られるとする見解が根強いです。

この点、契約締結上の過失の理論が論じられた古典的な例は、給付の原始的・客観的不能により契約が無効となる場合において、その無効を知らなかったことにより相手方が被った損害の賠償に関するものでした。

そこで問題となる信頼利益の賠償とは、契約の成立がある時点において確定し、その時点で契約の客観的無効原因が既に存在していることから、多くの場合、その賠償範囲は契約の締結費用その他契約の成立に関して被った損害に限られることとなるでしょう。

しかし、現在は、契約締結上の過失の理論は、給付の原始的客観的不能による契約無効の場合に限られず、契約の交渉過程において各当事者に求められる様々な義務への違反について、広く論じられるようになってきています。

例えば、契約がその交渉過程に置いて挫折した場合(交渉破棄型)、さらには契約が有効に成立した場合におけるその説明義務違反等を問題とする場合(説明義務違反・不当勧誘型)等が挙げられているのは、上記のとおりです。

このように、契約締結上の過失の理論が、契約の交渉過程・履行過程全体にわたって論じられている以上、その損害は従来の意味における信頼利益の賠償のみでは把握し切れなくなっていると評価せざるを得ないでしょう。

また、信頼利益と履行利益との厳密な区分は必ずしも明確でないことは従前から論じられてきているところであり、契約締結上の過失に基づく責任は信頼利益に限られるという定式自体に疑義が投げかけられています。

現に、裁判例においても、契約締結上の過失の理論を採用しながら、明確に履行利益の賠償まで認めたものもあり(例えば、東京地裁平12・7・5(平11年(ワ)6621 ウエストロー)、静岡地裁平8・6・17判時1620・122、判タ938・150、横浜地裁川崎支判平10・11・30判時1682・111等参照)、実務上、契約締結上の過失に基づく損害を信頼利益に限るという解釈は採用されていないと明示する論考もあるのです(「契約締結上の過失(改訂版)加藤新太郎編 新日本法規」174頁参照)。

このように見てくると、契約締結上の過失の理論に基づく損害賠償請求の事案であっても、形式的に、信頼利益のみが賠償され、履行利益は泣き寝入りである、というわけではなさそうです。

そこで、上記の履行利益を認めた裁判例や、実務家の論考を整合的に解釈するならば、契約締結上の過失の理論に基づく、損害賠償額の範囲としては、端的に、賠償義務発生原因からの因果関係を基礎として、一般原則に従って決せられているのではないでしょうか(高橋眞「契約締結上の過失論の現段階」ジュリスト1094号139頁に結論同旨)。

上記の裁判例でも、本契約(正式契約)の主たる内容等も確定され、ほとんど成立していると評価しても良い事案であったといえるので、契約交渉の成熟度や相手方に生じた期待の程度、本契約(正式契約)の内容等の確度等を勘案して、信義則上、契約交渉を不当に破棄しない誠実義務が認められるならば、その義務違反と相当因果関係のある損害の賠償は履行利益であっても賠償されるべきでしょう。

本ケースでは、Bの賃料収入の賠償請求は履行利益の請求に当たるため、裁判では厳しい心証を抱かれることも多いですが、ここまで検討してきた法律論を武器に、きちんと裁判官を説得するべく最大限努力する訴訟活動が望ましいと思います。

 

以上で、相談事例に基づく、契約締結上の過失法理の解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.06.27更新

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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