皆様、こんにちは。
赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。
今回のコラムは、株主総会決議が取り消された場合、それは遡及的に(決議時までさかのぼって)無効であったことになります。
この場合に生じる、会社法上種々の論点について簡単に解説を加えたいと思います。
1.代表取締役の法律行為と第三者の保護
取消判決の遡及効によって、当該株主総会で選任された取締役は当初から取締役でなかったこととなり、代表取締役もその地位の基礎となる取締役としての地位を失うため、同代表取締役がした行為は無権代表行為となります。
しかし、このように解して代表取締役が行った法律行為を無効としてしまうと、株主総会決議の瑕疵の存在を知らずに取引関係に入った第三者の保護に欠け、取引の安全を著しく害することになります。
そこで、取引関係に入った相手方を保護する法的構成を検討する必要がありますが、表見代表取締役の規定(354条)を類推適用することが考えられます。
その要件は、①外観の存在、②外観の付与(帰責性)、③取消原因についての善意無重過失であるため、この要件を満たしている場合には、会社法354条の類推適用により、相手方を保護するべきでしょう。
2.取締役の責任
取消判決の遡及効によって、当該株主総会決議で選任された取締役は当初から取締役でなかったこととなります。
そうだとすると、その間に行った行為について取締役としての任務責任を負わないということになるのでしょうか。
しかし、実際に取締役として行動し、その任務懈怠によって会社や第三者に損害が生じたのに、これを責任追及する方法が不法行為責任のみに限られるのは、第三者の保護に欠けることになります。
そもそも、取消判決の遡及効は法的擬制に過ぎずないと考えられており、実体としては真の取締役が行動していた場合と何ら異なるところはないのです。
そうだとすれば、事実上の取締役の地位にあったものとして、任務懈怠責任を認めることができると考えるべきです(423条、429条の類推適用)。
3.取締役の報酬・退職慰労金
取締役への報酬(退職慰労金)について議決した株主総会決議が取り消された場合は、取締役の報酬について必要な株主総会の議決が欠けることとなります。
そして、取締役の報酬請求権は株主総会決議時に具体化すると考えられる(361条)から、株主総会決議がないままでは取締役に報酬を付与することはできません。
それにもかかわらず、取締役は報酬を受けてしまっているから、報酬相当額は不当利得(民法703条)となります。
さらに、この場合は第三者の利害を考慮する必要がないから、絶対的に無効になると考えてよいでしょう。
したがって、取締役らは受けた報酬を返還しなければならなりません。
もっとも、会社も取締役の職務執行という役務の対価を受けています。
そして、報酬は職務執行の対価としての性格を有するのであるから、取締役から報酬の返還を受ければ、今度は会社側が一種の不当利得を得る結果となります。
そこで、取締役は自らが行った役務の価値を客観的に算定し立証することを条件として、相殺の抗弁を主張して、不当利得返還の一部又は全部を拒むことができると解すべきです(職務執行の対価にあたる報酬については「法律上の原因」があるとしても良いです)。
4.剰余金配当
株主への剰余金配当について議決した株主総会決議が取り消された場合、会社は、配当を受けた株主に対して不当利得返還請求(民法703条)をすることが考えられます。
そもそも、会社法が株主の利益に配慮して、剰余金の配当について厳格な手続を課した(454条2項、3項)趣旨に鑑みると、手続違反の剰余金配当は無効であると解するのが素直です。
この場合、取引の安全を考慮する必要がないことからも、絶対的に無効と解釈してよいでしょう。
したがって、会社の株主に対する請求は認められることになります。
以上で、株主総会決議の取消に基づく、種々の論点の簡単な解説でした。
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