弁護士葛巻のコラム

2018.02.09更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、契約書のレビュー(リーガル・チェック)について、少し考えを書こうと思います。

 

1.契約書の裁判所における扱い

そもそも、契約書というのは、ある契約・法律行為が行われたことを示す最も信頼の置ける証拠です。

厳密な話しをすると、処分証書(当該書面に法律行為が記載されている文書)に署名と押印がなされている場合、

二段の推定が働いて(民事訴訟法2228条4項)、特段の事情が無い限り、当該処分証書(契約書)に記載されている通りの法律行為の存在が立証されます。

※なお、処分証書の定義として、いわゆる「よってされた説」も非常に有力ではありますが、ここでは深く立ち入りません(後日コラムとして書く予定です)。

そうすると、何も分からずサインと判子を押してしまうと、契約内容を覆すことはとても困難となるのです。

事後的に、契約の内容を争うのは困難となりますので、事前のチェックがとても重要になります。

 

2.弁護士の依頼するメリット

そのため、紛争を予防する観点からすれば、弁護士という法律専門家のチェックを経ることは非常に重要です。

契約書は専門用語が使用される場合がほとんどですし、クライアントご自身でチェックするのは非常に労力を使います。

そもそも、契約書の内容が理解できない場合もあるかもしれません。

そんなときは、やはり弁護士の出番です。

私も、契約書のリーガルチェックの案件を多く担当していますが、「どうしてこんなに不公平な文言になっているのか」、と驚愕することもしばしばですので、こうした不合理な文言をそのままにして、契約書に署名と押印をしてしまうと大変なことになってしまうのです。

弁護士ならば、訴訟(紛争)を見据えて、適切な修正を入れることが可能ですし、弁護士が間に入ることで、相手方との交渉もスムーズにいく場合もあります。

しかも、費用としても、単発のご依頼であればリーズナブルな金額でお受けすることができます。

 

3.予防法務の重要性

企業にせよ、個人にせよ、契約周りをきちんとしておくことは、本業に専念する上で重要です。

ご自身のやりたいことが法務の面で足を引っ張ってしまっては非常にもったいないです。

弁護士にご依頼頂ければ、安心して本業に取り組むことができるでしょう。

この精神的なメリットは案外バカにできないものです。

契約書関係でお困りであれば、一度、お気軽にご相談下さい。

ご予約は、以下の予約フォームでお申し付けいたします。

契約書の作成・チェック以外でも、企業法務関係のご相談もお待ちしております。

 

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2018.02.02更新

皆様、こんにちは。

青山、赤坂、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回の会社法論点シリーズのコラムは、株主提案権に関する論点をまとめて解説します。

 

 

1.株主提案権の範囲

そもそも、株主提案権の範囲をいかに解すべきでしょうか?

 

例えば、取締役会設置会社では、株主総会は招集通知において株主総会の目的事項とされた事項しか決議できないこととの関係から(会社法309条5項)、少数株主権の議題提案は株主総会の日の8週間前に行わなければならないとされています(303条2項後段)。

 

そして、取締役会設置会社では、株主の議題提案権の対象となる「株主総会の目的である事項」は、会社法及び定款で取締役会設置会社の株主総会の決議事項としているものに限定されています。

よって、これ以外の事項に関する議題提案権を行使することはできないことになります。

 

もっとも、「定款の一部変更の件」という議題提案と、例えば「○○を株主総会の決議事項とする」という趣旨の定めを定款に追加する内容の議案の要領を株主に通知することの請求を行い(302条2項、305条1項)、定款変更提案が株主総会特別決議(309条2項11号)で可決されることを条件に、○○についての議案提案を同時に行えば、1回の株主総会によって目的の決議事項を実現することができます。
 

 

2.議題提出権等(303条2項)の株式継続保有要件について

 

では、株主が議題提出権等を行使する際、303条2項の株式継続保有要件(取締役会設置会社であれば6ヶ月)をいつまで充たし続けなければならないか。

議題提出権の行使日と株主としての基準日が前後する可能性があることから問題となります。

 

この点、①議決権のない者に議題提出権のみ認めるのは不合理であるので、行使日が基準日よりも前の場合には、基準日を終期とすべきであり、

②保有期間の始期が行使日から遡って6か月前であることからすれば、その途中で基準日が到来したとしても終期は行使日までと解するのが妥当と思われます。

 

したがって、議題提出権等の行使日と基準日のいずれか遅い日まで株式継続保有要件を具備している必要があると解すべきです。
 

 

3.株主提案権の提案できる議題・拒絶事由

 

そもそも、取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項は会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限定されるところ(295条2項)、株主総会の専決事項以外の決議事項を定款で取締役会の決議事項と定めた場合には、当該事項は株主総会の決議事項でなくなる結果、株主提案権の対象から排除されることとなります。

したがって、株主総会の決議事項について、取締役会で決議する旨の定款が定め(例:459条1項)のみが定められている場合には、当該事項は株主総会の決議事項でなくなるわけではないのに対して(よって、株主提案権の行使が可能)、当該定款の定めのある会社が、当該事項を株主総会の決議によっては定めない旨を定款で定めた場合には(例:460条1項)、当該事項は株主総会の決議事項ではなくなる結果、株主提案権の対象から排除されるのです。

この場合、株主提案を行うためには、後者の定款の定めを削除する旨の定款変更の株主提案も併せて行うことが必要となります。

 

※「実質的に同一の議案」(305条4項)の意義

 

なお、305条4項の「実質的に同一の議案」の意義についても、多少の議論がありますが、形式上は同一の議案であっても、前回に提案したときと、その背景や条件が異なり、提案の実質的な意味が異なっていると考えられる場合には、実質的に同一の議案とはいえないものと解されています。
 

 

4.株主の議題提出権等の行使を無視して、株主提案の議題・議案の要領が記載されていない招集通知の適否

 

そもそも、取締役は、本来、株主の議題提出権等に応じて、招集通知に議題及び議案の要領を記載する義務を負っているところ、この義務を怠った場合に招集通知自体が不適法となるとすると、他の議題・議案についても決議取消事由が生ずることとなり、必要以上の法効果を与えることとなると思われます。

 

そこで、招集通知自体は有効であると解した上で、株主の議題・議案を記載しなかったために、その議題が株主総会の目的とならなかったことに関しては、取締役に過料を課す(976条19号・2号)ことで対応するべきでしょう。

 

そして、その議案と異なる議案が決議された場合には、決議方法の法令違反として決議取消事由(831条1項1号)になることとして、その実効性を確保するべきです。

 

もっとも、議題を招集通知に記載しなかったことは、その議題が株主総会で決議できなくなるだけで、株主総会で決議された事項について決議方法に法令違反が生ずるものではないので、取消事由にはならないので注意が必要です。
 

 

5.書面投票制度と株主提案権

 

そもそも、書面投票を採用する会社では、議案がなければ株主は書面によって議決権を行使することができないから、議題のみの株主提案はできないものと解されています。

 

一方で、株主が株主総会の8週間前までに、取締役解任の議題とともに、Aを解任するという議案の要領を株主に通知すべきことの請求を行った場合には、これを受けた取締役は、当該議題提案を採用し、当該議案について株主総会参考書類に所定の事項を記載し、議決権行使書面には、A解任議案について賛否を記載する欄を設けなければなりません。

 

その場合、株主は、当該定時株主総会の会場で、A以外の取締役の解任の議案を提出することが可能になります。

なぜなら、株主は、株主総会の会場において、議題について議案を提出することができるところ(304条)、株主提案により取締役の解任が当該定時株主総会の議題となったからです。

 

そうすると、会場においてAに加えてBも解任するという提案がなされた場合、書面投票により議決権を行使した株主をどのように扱うべきでしょうか。

 

この点、書面投票を行った株主は、Aの解任議案については賛否の判断を行っているが、Bの解任議案については賛否の判断をしていないので、欠席(定足数に算入されず)又は棄権(定足数に算入される)と扱わざるを得ません。

しかし、欠席扱いとすると、定足数要件が緩和されている場合(341条参照)、株主総会に出席している比較的少数の株主の議決権によって解任等の決議が成立し得ることになって妥当でないため、棄権と扱うべきでしょう。
 

 

6.取締役会による会社提案の撤回-議場での株主提案

 

(※前提として、取締役会が議題・議案を事後的に撤回することは、業務執行行為の一環として、権利濫用等の特段の事情がない限り、許されます(298条4項参照)。)

 

取締役会設置会社は、株主総会の目的事項(298条1項2号)以外の事項について、決議することができません(309条5項)。

そのため、仮に、取締役会の決議によって既に招集通知に記載された会社提案を撤回したとすると、かかる議題・議案は株主総会の目的事項ではなくなる結果、株主は株主総会の議場においても、議案提案権(304条本文)を行使することができなくなってしまいます。

 

そもそも、309条5項の趣旨は、所有と経営の分離が予定され、株主が経営に関わらないことが想定されている取締役会設置会社においては、株主は招集通知に記載されている議題を確認してから出席するか否かを決めるところ、かかる議題以外の事項に関する議決を有効とすることは株主にとって不意打ちとなるからであるとされています。

 

そうだとすれば、一度招集通知において議題を株主総会の目的事項として記載したのであれば、株主は当該目的事項に関する検討・準備をすることができたのであるから、取締役会が事後的に当該目的事項についての議案を撤回したとしても、再び株主総会で当該目的事項に関する議案を審議することは株主にとって不意打ちとはならないものと思われます。

 

よって、309条5項の趣旨を没却することにはならないから、株主が議場において当該目的事項に関する議案の提案をすることは許されるべきでしょう。

 

以上が、株主提案権関連の論点の整理と解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.12.18更新

皆様、こんにちは!

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回からは、会社法の「機関」に関する論点の解説に入りjます。

まずは、取締役会設置会社における株主総会決議事項の拡張と全員出席総会という2つの論点を整理していきます。

 

1.取締役会設置会社における株主総会の決定可能事項の拡張

まず、取締役会設置会社は、所有と経営の分離により、株主総会の決定事項は原則として法律の定めた事項に限定されています(295条2項)。

これは、取締役会非設置会社の株主総会とは対照的です。

一方で、取締役会設置会社は、定款によって株主総会の決議事項を拡張することができるのですが(295条2項)、その範囲はどこまで許容されるのかが問題となります。

この点、株主は会社の実質的所有者であるし、法定の事項は株主の立場から便宜的に定められた事項に過ぎないと考えられます。

よって、会社の本質・強行法規に反しない限りで定款による株主総会決定事項の拡張は原則として許されると考えて良いでしょう。

それでは、代表取締役の任免権を株主総会の決定事項とできるでしょうか。

そもそも、代表取締役の任免権が取締役会に与えられた(362条2項3号)趣旨は、取締役会による代表取締役の職務執行を十分に監督させるためであるとされています。

そうだとすれば、株主総会に代表取締役の任免権を与えると、取締役会の監督機能を害するとも考えられるでしょう。

しかし、取締役会は命令・監督権を用いて、代表取締役を監視・監督することはできます。

また、解任したい場合(362条2項2号)は解任を議題として株主総会を招集すればよいと考えれば足りるでしょう。

以上からすれば、362条2項3号は強行法規ではなく、代表取締役の任免権を株主総会に与えることは可能であると解釈して差し支えありません。

そして、この場合取締役会の任免権が失われるものと解釈されます。
 

2.全員出席総会

次に、中小企業等でよく実施される全員出席総会に関する論点を整理します。

まずは、招集通知の瑕疵を治癒できるかについてです。

招集手続(299条)が実施されておらず、かつ、招集手続の省略に事前の同意(300条参照)がない場合に、株主全員(代理人による出席も含む)が株主総会の開催に同意して出席することによって招集手続の瑕疵を治癒することができないのでしょうか。

そもそも、招集手続の趣旨は株主に株主総会への出席の機会を確保し、また、準備のための時間的余裕を与える点にあると考えられています。

そうだとすれば、株主全員が総会の開催に応じて出席している場合、その利益を放棄していると考えることができます。

したがって、このような場合には、招集手続がなくとも、瑕疵なく株主総会決議が成立すると解釈して良いでしょう。

ただし、代理人が出席している場合には、株主が議題を了知している必要があると思われます。

なお、取締役会設置会社においては、株主総会では招集通知に記載された事項しか決議するこができませんが(309条5項)、議決権を有する株主全員が株主総会に出席しており、かつ株主全員の同意が得られれば、招集通知に記載されていなかった事項についても決議することが可能となります。

 

3.全員出席総会がなされたが、取締役が招集・出席されなかった場合

では、ややイレギュラーな問題ですが、全員出席総会がなされたが、取締役が招集・出席されなかった場合、その決議の効力はどうなるのでしょうか。

そもそも、株主総会は株主によって構成されるが完全な自足性を持った機関ではなく、その原則的招集権(296条3項)や発案権(298条1項・4項)は原則として株式会社の執行機関たる取締役(会)が有しているものと理解されています。

そうだとすれば、株主総会への出席は取締役の義務だけではなく権利でもあるといえるでしょう。

したがって、取締役に株主総会開催の通知をせず、あるいは取締役の出席を不当に拒絶した全出席総会は、その決議に取消事由があると解すべきです。

 

以上で、株主総会の取締役会設置会社における決議事項の拡張と全員出席総会に関する論点の整理でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.12.08更新

皆さん、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回の会社法の論点は、振替法と少数株主通知の時期について等です。

株式のペーパーレス化に伴い、個別株主通知の時期について議論を整理したいと思います。

 

1.株式振替制度と個別株主通知(少数株主権等)

そもそも、少数株主権等(振替法147条4項)とは、会社法124条1項に規定する権利以外の権利をいい、集団的権利行使以外の形で行使される株主の権利を指します。

そして、例えば甲が少数株主権等に当たる場合、これを行使するためには個別株主通知が必要となります。

それでは、個別株主通知はいつまでになされる必要があるでしょうか。

この点、個別株主通知は、振替法上少数株主権等の行使の場面において株主名簿に代わるものとして位置付けられており(振替法154条1項)、少数株主権等を行使する際に自己が株主であることを会社に対抗するための要件であると解釈されています。

そうだとすれば、申立人が株主であることを争った場合、その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要し、かつ、これをもって足りると考えるべきとされています。

以下、具体的場面に即して見ていきます。

 

2.裁判所が介在している場合

募集株式の発行差止めの仮処分命令の申立て、172条1項の価格決定の申立て、株式買取請求権の申立て(116条1項、117条2項)等は、裁判所が介在しているため、上述の一般論通りで問題ありません。

 

3.株主提案権(303条1項・2項、305条1項)の場合

他方で、株主提案権の行使等、裁判所が介在せず、会社のみで処理する場合にはどう解すべきでしょうか?

そもそも、303条1項・2項、305条1項の趣旨は、会社に追加の議題及び議案の要領を招集通知に記載して、それを発送するための準備期間を確保することにあります。

そうだとすれば、株主提案権の行使期限である株主総会の日の8週間前までに会社が株主の株式継続保有要件の有無を確認することができるようにする必要があり、このときまでに個別株主通知がされることが必要と解されるでしょう。

もっとも、個別株主通知は自己が株主であることを会社に対抗するための要件であり、権利行使要件ではありません。

したがって、個別株主通知は、株主提案権に先立ってされる必要はないと解されています。

 

4.株主総会の議場における質問権(314条)や修正動議(304条)の提出

他方で、これらの権利は、総会に出席して議決権を行使できることから派生する不可分一体の権利であるから、議決権に準じて、基準日株主の権利に含まれると解されます。

よって、個別株主通知は必要とされません。

 

以上で,簡単ではありましたが、振替法上の個別株主通知の時期についての解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.11.14更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、株主名簿の名義書換に関する諸論点を解説していきます。

まずは、会社側が株主名簿の名義書換を正当な理由無く拒絶している場合の法律関係についてです。

 

1.名義書換の不当拒絶

そもそも、名義書換を行わなければ、会社に対して株主たる地位を主張することができないのが原則です(130条1項)。

しかし、この原則は、会社が不当に名義書換を拒絶している場合も同様に当てはまるのでしょうか。

名義書換制度の趣旨は、株主名簿による株主の集団的・画一的取扱いを可能にする点にあり、会社の利益保護のための規定であるとされています。

そうであるならば、名義書換を不当に拒絶した会社は信義則(民法1条2項)に反し、保護に値しないということができるでしょう。

したがって、名義書換を不当に拒絶された実質上の株主は、名義書換えなくして会社に対して株主であることを主張し得ると解すべきです。

なお、ここでいう不当拒絶には会社の過失による名義書換未了の場合も含まれます。
 

2.名義書換未了の株主(失念株主)の地位(会社側からの権利行使承認の可否)

(※なお、前提として基準日前の譲渡であることが必要です。)

繰り返しになりますが、名義書換を行わなければ、会社に対して株主たる地位を主張することができません(130条1項)。

では、会社側から、権利行使を認めることができないのでしょうか。

そもそも、名義書換制度の趣旨は、株主名簿による株主の集団的・画一的取扱いを可能にする点にあり、会社の利益保護のための規定です。

そうだとすれば、会社がかかる利益を放棄するのは自由です。

また、条文上も「対抗することができない」とされており、会社の方から権利行使を認めることを禁止しているとは解されません。

したがって、会社が自己の危険において、権利行使を認めることは可能であると解すべきです。

ただし、会社は株主平等原則(109条1項)に配慮しなければならない点に注意が必要です。

すなわち、恣意的な権利行使の承認は許されず、ある名義書換未了の譲受人に権利行使を許容する以上、他の名義書換未了の譲受人全てに権利行使させなければなりません。

(※そうすると、株主数の多い会社では実質株主を把握することは不可能であるから、結局名簿上の株主を一律に株主として扱わざるを得ないことになります。)

 

3.基準日後の譲渡の場合の株主総会の議決権の行使(124条4項)

ここで、補足ですが、基準日後の株式の譲渡の場合に株主総会の議決権の行使をいかに解するか、という論点があります。

この点も追加で説明しておきましょう。

そもそも、124条4項ただし書の「基準日株主の権利を害する」とは、基準日後に株式を譲り受けた者に議決権を行使するこができるものと会社が定めることにより、当該株式の基準日株主が議決権を行使できなくなるような場合を指します。

これに対し、会社が基準日後に募集株式の発行をし(組織再編行為も含まれる)、新株主に議決権の行使を認める場合には、当該株式についての基準日株主は存在しないから、基準日株主を害することはありません。

もっとも、会社が基準日後に募集株式を発行した場合であっても、株主総会において会社支配権の争奪が生ずることが予想され、取締役会の多数派が第三者割当ての方法によって自派に株式発行を行った上で、会社として議決権の行使を認めることは、違法となる可能性があります。

法律構成としては、124条ただし書に当たり、基準日株主の権利を害すると解する見解や、新株発行の差止めに付随してか、あるいは、既存株主の妨害排除請求権を本案として、議決権行使の差止めが認められると解する見解があります。
 

4.名義書換未了の株主(失念株主)の地位(譲渡人・譲受人・会社の関係)

⑴会社との関係

名義書換がなされていない以上、会社との関係では依然として譲渡人が株主です(130条1項)。

⑵当事者間の関係

当事者間では意思表示のみで株主の譲渡が可能である以上、株主たる地位は譲受人に移転していることになります。

したがって、譲受人には株式・新株予約権の割当てを受ける権利等や剰余金の配当を受ける正当な権利があります。

そうだとすれば、譲渡人が権利を行使している場合には、それが不当利得(民法703条、704条)となるでしょう。

ここに、増資含みの高値による株式譲渡と株式のプレミアムを取得することは二重の利得となるが、特に後者が不当利得となると考えられます。

では、譲受人は譲渡人に対して何を請求できるのでしょうか。

〈株式の無償割当、分割又は剰余金の配当がなされた場合〉

この場合、譲渡人は何らの経済的出捐をせず、利得していることとなります。

そうだとすれば、配当額や株式そのものが不当利得です。

したがって、剰余金配当であれば配当額を譲受人に交付すべきであるし、株式の無償割当や株式分割であれば、株式そのものを引き渡すべきです。

もっとも、交付すべき株式を既に売却してしまった場合には、価格賠償によるべきであるが、その価格はいかに算定すべきでしょうか。

この点、返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額と解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部または一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして妥当でありません。

逆に、物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも同様に当事者間の公平を害することになるでしょう。

そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却した場合には、損失者に対し売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解すべきです。

〈株主割当てにより募集株式、新株予約権の割当を受ける権利が与えられた場合〉

判例は、この場合譲受人による不当利得返還請求を認めませんが、当事者間では株主たる地位が譲受人に移転している以上、これは対会社との関係と対譲渡人との関係を混同するものであるとの見解が有力です。

そこで、譲受人は、譲渡人に対して不当利得返還請求をなし得ると解するが、株式それ自体は譲渡人自身の支払によって得られたものであるから、「法律上の原因」があり、不当利得とならないでしょう。

よって、原則として価格賠償として、現存利益の限度で不当利得を返還すべき(民法703条)であると解すべきです。

具体的には、引受時の株価と引受価額の差額を上限として、株価が値下がりしている場合は、請求時の株価と引受価額との差額しか請求できないものと解釈されます。

なお、譲受人が払込期日前に、払込金額相当の金銭を提供して、譲渡人に対して請求した場合は、譲受人は譲渡人に対し株式・新株予約権の引渡しを求めることができると解すべきです(民法704条)。

なぜなら、譲受人が株式の引受けの意思表示を行っていた以上、譲渡人が株式を引き受けることができる地位にないからであると説明されています。

 

以上で、株主名簿の名義書換一般の諸問題を解説いたしました。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.11.01更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、会社法論点シリーズの「他人名義による株式の引受け」という問題です。

これは、実務上よく扱うということではなく、純理論的な論点なのですが、結構混乱する部分なのでここで触れておこうと思います。

 

1.想定事案

さて、どういう問題かと言いますと、会社が株式を発行する際に、AがBの承諾を得て、Bの名義で募集株式を引き受けた場合、真の株主は名義人であるBか、それとも実際の払い込み(金銭の支払い)等を行っているAか、という論点です。

 

2.判例の見解

この点、判例は、法律行為の一般原則に従い、真の契約の当事者として申込みをした者(実際の申込み者=A)が引受人となり、募集株式の発行等の効力発生日以後は株主となると判示しています。

この判例の事案において、Aは募集株式の発行等をした株式会社の代表取締役であり、実質上の申込者がAであることを発行会社は当然に知っていた事案であり、引受人をAとする解釈で特に問題はありません。

しかし、発行会社が名義貸しについて知らず、申込者がBであると信じて募集株式を割り当てた場合にも、Aが当然に引受人・株主になるというのでは発行会社の期待に大きく反するでしょう。

 

3.従来の通説

また、従来の通説は、他人名義の株式の引き受けの場合は、実質上の引受人=Aが常に引受人であるとしつつ、株主名簿の対抗力ないし免責的効力により、会社が名義貸しについて知らない場合には、Bを株主として扱うことを許容し、結論の妥当性を図っています。

すなわち、会社法130条1項を適用し、同条項は、文言上は、株式の譲渡についての規定であるが、これは、株主名簿の効力一般について定めたものであり、およそ会社に対し株主であることを主張する全ての場合についての対抗要件を定めたものと解するのです。

その理由は、集団的法律関係の画一的処理という株主名簿の制度趣旨は、名義株の場合にも及ぼすことが妥当であると考えるからでしょう。

よって、会社が他人名義での株式の申込みがなされたことを知らない場合には、会社は名義人Bを引受人と扱えば足りると解釈されています。

 

4.現在の有力な見解

しかし、会社法130条は株式の「譲渡」に関する規定であり、設立時の株主の確定や募集株式の発行等は、いわば株式の「原始取得」の場面であり、株主名簿の記載とは無関係に会社に対抗できると考えるのがむしろ自然でしょう。

また、原始取得の場合には株主名簿の免責的効力は、少なくとも問題とならないといえます。

したがって、株式の原始取得の場合には、実質株主Aは株主名簿の名義書換をすることなく権利行使することが可能であると解釈することさえ可能で、上記従来の通説のように、会社法130条を適用して事案の妥当な解決を図るのは若干理論的整合性に疑問があります。

そこで、近時は、発行会社が名義貸しの事実を知らない事案では、発行会社はAとBのいずれが引受人であるかを選択することができる(Bが申込者であるとの外観を作出したA及びBは、信義則上、実質上の申込者がAであることを会社に対抗できない)と解する見解が有力です。

この場合、発行会社がBを引受人(株主)と認めた場合には、➀Aは株主名簿の名義書換(130条)をしなければ会社に対して株主たる地位を主張できないし、②譲渡制限株式の場合、Aが発行会社との関係で株主となるためには、発行会社の承認(136条以下)を得る必要があると解釈されます。

なお、この場合、名義書換や譲渡承認手続に協力する義務をBが負うか否かは、AB間の合意の解釈の問題でしょうが、通常は、名義貸しの合意をしたAB間で、Aが真の株主であるとの了解があると解されるため、Aが手続への協力を求めた場合、Bはそれに応じる義務を負うと解釈されると思われます。

 

以上が、他人名義での株式の引き受けという論点の解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.27更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、中小企業で多く用いられる、譲渡制限株式について、会社の承認がないままに上とされた場合、その効力は有効か?

誰を株主と扱えばよいか等について解説します。

 

1.承認なき譲渡制限株式の譲渡の効力

譲渡制限株式とは、譲渡の際に、会社の承認を必要とする種類株式です。

それでは、会社の承認(139条1項)がない場合、株式譲渡の効力をいかに解すべきでしょうか。

そもそも、株式に譲渡制限を付した目的は、会社に対する関係で譲渡を無効とし、会社にとって好ましくない者が株主になるのを阻止する点にあるとされています。

また、会社法137条1項、138条2号は、譲受人から承認請求することを認めており、これはすなわち、譲渡当事者間においては譲渡が有効であることを前提とされているのです。

したがって、会社との関係では無効であるとせざるを得ないものの、譲渡当事者間では有効であると解すべきです。

 

2.会社は誰を株主として扱えばよいか

では、その場合、会社は譲渡人、譲受人いずれを株主として取り扱うべきでしょうか。

この点、会社との関係で効力を生じないことの論理的帰結としては、譲渡人を株主として取り扱うべきとするのが自然でしょう。

また、株主権行使の空白発生を防ぐべきとの要請もあります。

したがって、会社は譲渡人を株主と取り扱うべき義務を負うと解すべきです。

なお、会社の同意があっても譲受人を株主として扱うことはできないとされています。

ここで、名義書換未了の株主の取り扱いについて、会社法130条2項・1項の趣旨は、会社と株主との関係を集団的・画一的に処理する会社の事務処理の便宜を図ることにあることから、会社のリスクで名義書換未了の株主を株主として扱うことは許されるものとされていることから、上記結論との整合性が問題となり得ます。

しかし、これが許されるのは株式譲渡自体が会社との関係でも有効であることが前提です。

そのため、会社の承認なき譲渡制限株式の譲渡のように、株式譲渡自体が会社との関係で効力を生じていなければ、会社が譲受人を株主と扱うことはできないものと解されます。

 

3.一人株主の全株式の譲渡の場合

それでは、一人株主が全株式を譲渡した場合はどうなるのでしょうか。

思うに、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあります。

そうだとすれば、一人株主が全株式を譲渡した場合、他の株主の利益保護が問題となる余地は全くありません。

したがって、一人株主の場合には、会社の承認は不要であると解されます。

なお、株主が二人だけの場合でも理論上この類型と同様に考えることが可能です。

株主が二人だけであるということは、つまり、その二人の株主が譲渡人と譲受人となっているということであり、会社にとって好ましくない者が株主になるおそれがないからです。

 

4.株主間での譲渡の場合

では、株主間での譲渡の場合はどうなるのでしょうか?(この場合、全株主が三人以上であるとする)

この場合、原則として、会社の承認がない以上、当該譲渡は会社に対抗できないのは同様です。

そして、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあるが、株主間における譲渡の場合には、会社にとって好ましくない者が新たに株主になるという問題は生じません。

そうだとすれば、株主間での合意に基づく株式の譲渡は有効であり、定款所定の承認を欠いても、会社に対抗することができるとも考えることができそうです。

しかし、個々の株主がどのような割合で株式を有するかという点についても、株主相互の関係にとって非常に重要であるといえます。

そのため、株主相互の株式の譲渡についても、定款所定の承認を要するものと解すべきです。

したがって、かかる譲渡を有効なものとして会社に対抗するためには、株主全員の間での合意を要すると考えるべきです。

この場合に限り、定款所定の承認がなくても譲渡は有効であり、会社に対抗することができると解する。

 

5.145条1号の見なし承認決議について

補論として、会社法145条1号の見なし承認決議の運用等について解説します。

本条の趣旨は、そもそも株式は譲渡自由が原則である(127条)以上、会社が譲渡承認請求に対する返答を意図的に遅滞することで、譲渡承認請求者による株式譲渡が不可能となる事態を防ぐことで、譲渡承認請求者に投下資本の回収を保障する点にあります。

そのため、仮に、会社が情報共有をしておらず、本件株式譲渡を承認するか否かについて検討する機会が失われていたとしても、145条1号は適用するべきでしょう。

もっとも、譲渡制限制度は株主の個性を重視する会社形態を考慮したものであるから、従来の株主保護を譲受人よりも優先させるべきです。

そのため、形式的に145条1号に当たる場合でも、従来の株主の地位を不当に脅かすような場合には、信義則上、同条の適用が否定される、とする見解もあるのでこの点には注意が必要です。

 

以上が、会社の承認なき譲渡制限株式の譲渡の効力でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.20更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊で弁護士をやっております葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、会社法106条の株主の共有について解説しようと思います。

実務上、株式の共有化が発生してしまうのは、高齢の株主が亡くなって相続が発生した場合、被相続人が有していた株式が相続人の共有となるのです。

実際上、よく起こりうる事例ですので、今回のテーマに選びました。

会社法106条では、共有株主の権利行使者を指定しなければ、共有株主の権利行使ができない定めとなっています。

そこで、まずは、どのようにして共有株主の権利行使者を定めるべきか、共有株主の権利行使の方法について述べたいと思います。

 

1.株式共有(106条)-共有株主の権利行使の方法

まず、株式が共同相続された場合、株式は自益権のみならず、共益権をも含むから、可分債権(民法427条)とみることはできません。

そのため、株式は共同相続人の準共有(民法264条)となるものと解釈されています。

そして、株式の共有者は会社に権利行使者を指定して通知する必要があるところ(106条本文)、権利行使者はどのように定めるべきでしょうか。

この点、共有者全員一致(同意)を要求するという見解も有力ではありますが、会社運営に支障をきたすおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮したという同条の趣旨を没却してしまいます。

また、権利行使者の指定は共有物の管理行為に該当する(民法252条)と解釈するのが素直です。

したがって、共有部得tの管理行為と同様、共有持分の過半数をもって決すべきであると解すべきでしょう。

判例も同様の見解に立っています。

ここで、株式の準共有状態は遺産分割が終わるまでの過渡的なものであるから、共同相続人は議決権行使方法につき事前に協議する機会が全員に与えられることが必要となります。

よって、一部の不参加がやむを得ない事情による場合、参加の機会を与えても指定の結果が異なることは考え難い場合等に限り、共同相続人全員による事前協議を欠いた権利行使者の指定は有効となると解釈できますが、他方で、そのような事情が認められず、全く協議せずに権利行使者を指定し、議決権を行使した場合には、権利の濫用として、その権利行使は許されないと考えるべきでしょう。

もっとも、会計帳簿閲覧請求権の行使のみを行うなど、他の共有株主の潜在的持分を害するおそれがない場合には、協議を経ていなくても、権利濫用に当たらないと解することもできます。

なお、事前協議によって定められた権利行使者は自己の判断で株主としての権利を行使することができます。

そして、株主の共有者間で権利行使に関しての内部的合意があったとしても、会社に対してこれを対抗することはできないとされています。

しかし、共有持分の過半数の決定があれば、権利行使者は各共有者の指示に従い議決権を行使する(各共有者の指示が異なるときは不統一行使(313条)をする)義務を共有者の内部関係上負うことになります。

そして、権利行使者が共有者の指示に反した議決権行使をしたことにつき会社が悪意の場合には、そのことをもって会社に対抗することができる(当該議決権行使は違法であり、決議は取消事由を帯びる)と解すべきです。
 

2.相続と株主名簿の書換え

共同相続人が相続株式の権利を行使する前提として、相続による株式の移転を会社に対抗しるために株主名簿の名義書換(130条1項)を要するのでしょうか。

株式の譲渡等の場合、譲受人は株主名簿の名義書換が完了しなければ、自己が株主であることを会社に対して対抗(主張)することができません。

しかし、130条1項は株式の「譲渡」の対抗要件を定めるにすぎず、相続その他の一般承継とは無関係な規定です。

また、相続人は被相続人の法的地位を包括的に承継するのだから、「名義株主」という地位をも承継すると解すべきです。

よって、相続による株式の移転は名義書換をしなくても会社に対抗することができると考えるべきでしょう。

このように考えなければ、基準日後(124条)に相続が生じた場合、相続人は議決権を会社の同意を得なければ(124条4項)行使できなくなり、また、その他の権利もおよそ認められなくなってしまいます。

株主の意思によって左右できない「死亡」の時期によってこのような不都合が生じるのは妥当ではないでしょう。

また、名義株主(被相続人)は既に死亡しているから、譲渡と異なり、名義株主と承継株主との間で権利行使の重複が生じるおそれもありません。

なお、この見解に立つ場合、株主総会への出席・議決権の行使のような、会社法の免責規定がない場合の処理をいかにするかが問題となります。

この点、相続人が株主総会に出席して議決権を行使するには自己の権利を証明しなければならず、そのような証明をしない相続人に対して、会社が株主総会の出席や議決権行使を拒んだとしても、決議は違法の瑕疵(831条1項1号)を帯びることはないと解すべきでしょう。
 

3.106条ただし書の適用範囲

参考:会社法106条「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」

共有者の過半数に基づく決定がない場合に、会社の方から権利行使を認めることができるのでしょうか。

確かに、上記、106条ただし書を文言通り解釈するとこれを肯定できそうです。

しかし、権利行使者の指定は共有物の管理に属する事項であり、それについての決定は共有者内部の問題であり、会社が勝手にその関係を変更することは許されないでしょう。

また、仮にこの点を肯定すると、会社の恣意的な運用を許すことになります。

したがって、共有株式の議決権行使の方法を共有持分の過半数による決定を要すると解するのであれば、各共有者が議決権を行使することもまた、共有持分の過半数の決定がない限り、たとえ会社が同意しても行うことはできないと解すべきです。

結果として、各共有者が議決権を行使することもまた、共有持分の過半数の決定がない限り、たとえ会社が同意しても(106条ただし書が適用されないため)行うことができません。

逆に言うと、共有持分の過半数の決定があれば、会社の同意を得て各共有者が議決権を行使することができることになります。

また、議決権とは異なり、違法行為是正のための株主訴権(828条・831条等)などは、保存行為(民法252条ただし書)の性格をもち、本来は共有者1人により行使できるものであり、会社法106条は会社の事務処理上の便宜のために権利行使者による行使を要求しているに過ぎないから、会社が同意すれば、共有持分の過半数の同意がなくても各共有者が訴えを提起できると解釈されるでしょう。
 

4.訴訟提起における権利行使者の通知

権利行使者が未確定にもかかわらず、ある共有者の権利行使を会社が認め(106条ただし書)不当な決議が成立した場合(前述のようにこのような権利行使は106条ただし書に反し、取消事由を構成する)、他の相続人は株主総会決議取消訴訟等を提起できるのでしょうか。

この点、訴訟提起も会社に対する権利行使の一種であり、実質的にみても会社運営の便宜を図った同条の趣旨が及ぶものと解されます。

したがって、この場合も106条本文に基づき、権利行使者の指定・通知をなす必要があり、これがない場合は、会社の同意(106条ただし書)がなされない限り、原告適格を欠くこととなります。
しかしながら、共有株式が発行済株式の全部又は過半数を占めているため、本来成立するはずのない決議が成立したような場合には、会社は一方で権利行使者の指定・通知をしなければ成立し得ない株主総会決議の成立を主張しつつ、他方で、権利行使者の指定・通知がないことを理由にこれを争うことは、防御権の濫用もしくは信義則違反として、原告適格が肯定される特段の事情があるといえると思われます。

 

以上で、株主共有に関する種々の論点の解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.06更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

会社法の論点シリーズですが、今回は設立中の会社についてです。

会社はきちんとした設立手続を経て法人格を取得するまでに、ある程度の時間がかかりますし、会社が設立されるまでに様々な取引行為が行われる場合があります。

今回は、そのような場合の法律関係について解説しようと思います。

 

1.設立中の会社の意義

まず、設立中の会社とはどのような概念なのでしょうか?

この点、法人格が付与されていない段階においても、会社の社団形成自体は徐々に行われており、一定の段階で権利能力なき社団たる設立中の会社の成立を認めることができるものと解されています。

そうだとすれば、設立中の会社と成立後の会社は実質的に同一の存在であるとみるべきであるから、発起人が設立中の会社の機関として行った設立のために必要な行為の効果は、会社成立前においても実質的には設立中の会社に帰属しているものと解されます。

したがって、このような会社設立前の発起人が行った法律行為は、会社の成立とともに形式的にも当然に成立後の会社に帰属するものと解釈されています。
 

2.設立中の会社の発起人の権限

では、設立中の発起人の権限はどのように解釈されるのでしょうか?

まず、設立中の会社は本質において成立後の会社と同一であるから、設立中の会社の機関として発起人が権限内で行った行為による権利義務は、特段の移転行為を要せずに当然に成立後の会社に承継されるものと理解されています。

それでは、設立中の会社の発起人の権限の範囲をいかに解するべきでしょうか。

そもそも、設立中の会社は会社の設立を目的とするから、会社設立のために直接必要な行為まで可能だとみなければならないでしょう。

よって、設立中の会社の発起人の権限は会社設立のために法律上・経済上必要な行為まで及ぶと考えるべきです。

もっとも、会社の財産的基礎を確保すべく、定款に記載がある範囲内で発起人の権限を認めるべきしょう。

以下、個別の行為毎に詳しく見ていきます。

➀財産引受け

財産引受けは本来権限の範囲外の行為であるので、定款への記載等を要件として法が特に認めた行為であるといえます(会社法28条2号)。

※なお、このような定款への記載を要件として法が特に認めた事項を変態設立事項といいます。

よって、定款に記載がなければ、無効となるの原則です。

では、会社から追認することは可能でしょうか。会社から追認することができれば、事後的に財産引受けも有効となり得るということとなります。

そもそも、会社法28条2号は開業準備行為である財産引受けについて、例外的に発起人の権限を認めたものです。

そうだとすれば、定款に記載がない場合には追認も認めるべきではないでしょう。

実質的に考えても、仮に追認が可能であるとすると、法の規定を守って、わざわざ時間と費用を費やして、財産引受けにつき定款記載・検査役の調査を行う者はいなくなり、制度が空洞化してしまい妥当ではないと言わざるを得ません。

よって、会社からの追認はできず、定款に記載のない財産引受けは無効であると解すべきです。

もっとも、取引後、長時間が経過した後に会社が無効主張をするなど、信義則に反する特段の事情が認められる場合もあるので、この点は注意が必要です。

また、無効とされた場合の、相手方の保護は、発起人が無権代理人に類似した地位に立つため、民法117条の類推適用によって図られることになります。

なお、発起人が将来成立する会社の代表者名義で取引をした場合、一般に会社と取引をする者が会社登記簿を調査しなかったとしても、これをもって直ちに過失があるとまではいえません。

しかし、設立中の会社の名で取引がなされた場合には、相手方は会社が未成立であることを知っているので、発起人が無権限であることを知り、又は過失によって知らなかったものとして、無権代理人の責任は否定される(民法117条2項)でしょう。

②開業準備行為                      

財産引受け以外の開業準備行為については、発起人の権限の範囲外です。

また、財産引受けと異なり、他の開業準備行為に関しては会社法に定めがないから、絶対的に無効とせざるを得ません。

もっとも、相手方としては、会社という「本人」が実在しない場合と同視でき、民法117条の類推適用により、費やした費用を発起人に対し賠償請求することができるでしょう。

③設立費用

設立費用は会社設立のために必要な行為であるから、当然発起人の権限内の行為です。

そして、判例は、定款に記載された額の限度内において、発起人のした取引の効果は成立後の会社に帰属し、相手方は会社に対してのみ支払いを請求できる(発起人には請求できない)としています。

そうすると、行為の時系列によって効果が帰属するか否かが区別されることになります(限度額を超える場合は、残額を発起人等に請求する)。

この場合、いずれの取引が先になされたか不明な場合の処理に窮しますが、そうした場合、債務の額に応じて案分した範囲で会社への請求を認めるとの見解があります。

もっとも、会社財産確保の観点から、定款記載等があっても、取引の相手方に支払責任を負うのは発起人のみであり、発起人は定款記載の額を限度として成立後の会社に求償できるとの見解も有力です。

 

※発起人組合と開業準備行為・事業行為

複数の発起人間の合意は民法上の組合契約です発起人組合)。

そして、発起人組合の目的は会社の設立であるが、発起人全員の合意があれば、開業準備行為や事業行為もその目的に含めることができます。

したがって、定款に記載のない財産引受け等の開業準備行為や、さらには事業行為など、設立中の会社の執行機関としては権限外の行為でも、発起人組合の組合員としては権限内の行為であるとものがあり得ます。

その場合、組合を代理する権限を有する者がした行為の効果は、発起人組合に帰属し、発起人全員が責任を負うことになります。
なお、発起人組合の行為か否かを、行為者の肩書により形式的に判断すると、設立中の会社の機関としては権限外の行為だが発起人組合の目的の範囲内となる行為が、組合の行為とされない可能性が生じ得ます。

そこで、肩書表示を重視せず、当該行為が、発起人の権限の範囲外だが発起人組合の目的の範囲内に含まれる場合、その効果は発起人組合に帰属し、発起人全員が責任を負うと解すべきでしょう。

 

以上で、設立中の会社についての解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.29更新

皆様こんにちは!

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、見せ金等の仮装払い込みによって、会社法上生じる問題について解説してきます。

 

1.見せ金の払い込みの効力

まず、見せ金によって、発起人が行った払い込みの効力どうなるのでしょうか?

その前に、見せ金の定義ですが、

見せ金とは、発起人が払込取扱機関以外の者から借り入れた金を払込に充てて会社を設立した上、会社の成立後それを引き出して借入金の返還に充てる行為をいう。

とされています。

これによると、確かに、見せ金は形式的には金銭の移動があり、個々の行為は有効と考えられます。

しかし、見せ金行為を全体としてみると、個々の行為は仮装払込みのためのカラクリの一環をなしているに過ぎず、実質的には会社財産は確保されていないのです。

そうだとすれば、見せ金による払込みは無効と考えるべきでしょう。

具体的に、いかなる場合が見せ金に該当するのかの判断基準は、判例上

①借入金を返済するまでの期間の長短

②払込金が会社資金として運用された事実の有無

③借入金の返済が会社の資産関係に及ぼす影響の有無

等を総合的に観察して、払込の仮装と認められれば無効となるものと解釈されています。

なお、見せ金の場合も、募集設立の場合には、払込取扱機関は64条2項類推適用により保管証明責任を負うものと解されています。
 

2.仮装払込みにより払込みが無効とされた株式の効力

では、次に、見せ金等の仮装払い込みにより、払い込みが無効とされた株式の効力はどうなるのでしょうか?

この論点は、会社法改正前であれば無効説が有力でしたが、現在では有効説が有力とされています。

すなわち、会社法の改正により、出資の払込み等を仮装した募集株式引受人の払込金全額の・出資財産の価額に相当する金額全額の支払義務を新たに法定するとともに(213条の2、286条の2第1項)、当該義務の履行を行わない限り仮装払込者の株主の権利が停止する旨、及び当該仮装払込者からの善意・無重過失で株式を譲り受けた者の手元で株主権停止が解除され株主としての権利行使が可能となる旨が規定されました(209条2項・3項、282条2項・3項)。

また、併せて、仮装払込み等の場合の関与取締役等の仮装払込相当額の支払義務を法定しています(213条の3、286条の3)。

こうした立法措置に鑑みるならば、見せ金による払込みを無効と解しても、募集株式の発行等の効力までは無効または不存在となることが予定されていないというべきであり、募集株式の発行等の効力は依然として有効と解さざるを得ないと考えられます。
 

3.仮装払込みと設立の効力

最後に、仮装払い込みがなされた場合の会社設立の効力はどうなるのでしょうか?

この点、仮装払込みは無効であり(上記1)、会社財産が「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)に満たないと、設立無効原因(828条1項1号)となります。

 

以上が、見せ金等の仮装払い込みの諸問題に関する解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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