弁護士葛巻のコラム

2017.11.01更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、会社法論点シリーズの「他人名義による株式の引受け」という問題です。

これは、実務上よく扱うということではなく、純理論的な論点なのですが、結構混乱する部分なのでここで触れておこうと思います。

 

1.想定事案

さて、どういう問題かと言いますと、会社が株式を発行する際に、AがBの承諾を得て、Bの名義で募集株式を引き受けた場合、真の株主は名義人であるBか、それとも実際の払い込み(金銭の支払い)等を行っているAか、という論点です。

 

2.判例の見解

この点、判例は、法律行為の一般原則に従い、真の契約の当事者として申込みをした者(実際の申込み者=A)が引受人となり、募集株式の発行等の効力発生日以後は株主となると判示しています。

この判例の事案において、Aは募集株式の発行等をした株式会社の代表取締役であり、実質上の申込者がAであることを発行会社は当然に知っていた事案であり、引受人をAとする解釈で特に問題はありません。

しかし、発行会社が名義貸しについて知らず、申込者がBであると信じて募集株式を割り当てた場合にも、Aが当然に引受人・株主になるというのでは発行会社の期待に大きく反するでしょう。

 

3.従来の通説

また、従来の通説は、他人名義の株式の引き受けの場合は、実質上の引受人=Aが常に引受人であるとしつつ、株主名簿の対抗力ないし免責的効力により、会社が名義貸しについて知らない場合には、Bを株主として扱うことを許容し、結論の妥当性を図っています。

すなわち、会社法130条1項を適用し、同条項は、文言上は、株式の譲渡についての規定であるが、これは、株主名簿の効力一般について定めたものであり、およそ会社に対し株主であることを主張する全ての場合についての対抗要件を定めたものと解するのです。

その理由は、集団的法律関係の画一的処理という株主名簿の制度趣旨は、名義株の場合にも及ぼすことが妥当であると考えるからでしょう。

よって、会社が他人名義での株式の申込みがなされたことを知らない場合には、会社は名義人Bを引受人と扱えば足りると解釈されています。

 

4.現在の有力な見解

しかし、会社法130条は株式の「譲渡」に関する規定であり、設立時の株主の確定や募集株式の発行等は、いわば株式の「原始取得」の場面であり、株主名簿の記載とは無関係に会社に対抗できると考えるのがむしろ自然でしょう。

また、原始取得の場合には株主名簿の免責的効力は、少なくとも問題とならないといえます。

したがって、株式の原始取得の場合には、実質株主Aは株主名簿の名義書換をすることなく権利行使することが可能であると解釈することさえ可能で、上記従来の通説のように、会社法130条を適用して事案の妥当な解決を図るのは若干理論的整合性に疑問があります。

そこで、近時は、発行会社が名義貸しの事実を知らない事案では、発行会社はAとBのいずれが引受人であるかを選択することができる(Bが申込者であるとの外観を作出したA及びBは、信義則上、実質上の申込者がAであることを会社に対抗できない)と解する見解が有力です。

この場合、発行会社がBを引受人(株主)と認めた場合には、➀Aは株主名簿の名義書換(130条)をしなければ会社に対して株主たる地位を主張できないし、②譲渡制限株式の場合、Aが発行会社との関係で株主となるためには、発行会社の承認(136条以下)を得る必要があると解釈されます。

なお、この場合、名義書換や譲渡承認手続に協力する義務をBが負うか否かは、AB間の合意の解釈の問題でしょうが、通常は、名義貸しの合意をしたAB間で、Aが真の株主であるとの了解があると解されるため、Aが手続への協力を求めた場合、Bはそれに応じる義務を負うと解釈されると思われます。

 

以上が、他人名義での株式の引き受けという論点の解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.27更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、中小企業で多く用いられる、譲渡制限株式について、会社の承認がないままに上とされた場合、その効力は有効か?

誰を株主と扱えばよいか等について解説します。

 

1.承認なき譲渡制限株式の譲渡の効力

譲渡制限株式とは、譲渡の際に、会社の承認を必要とする種類株式です。

それでは、会社の承認(139条1項)がない場合、株式譲渡の効力をいかに解すべきでしょうか。

そもそも、株式に譲渡制限を付した目的は、会社に対する関係で譲渡を無効とし、会社にとって好ましくない者が株主になるのを阻止する点にあるとされています。

また、会社法137条1項、138条2号は、譲受人から承認請求することを認めており、これはすなわち、譲渡当事者間においては譲渡が有効であることを前提とされているのです。

したがって、会社との関係では無効であるとせざるを得ないものの、譲渡当事者間では有効であると解すべきです。

 

2.会社は誰を株主として扱えばよいか

では、その場合、会社は譲渡人、譲受人いずれを株主として取り扱うべきでしょうか。

この点、会社との関係で効力を生じないことの論理的帰結としては、譲渡人を株主として取り扱うべきとするのが自然でしょう。

また、株主権行使の空白発生を防ぐべきとの要請もあります。

したがって、会社は譲渡人を株主と取り扱うべき義務を負うと解すべきです。

なお、会社の同意があっても譲受人を株主として扱うことはできないとされています。

ここで、名義書換未了の株主の取り扱いについて、会社法130条2項・1項の趣旨は、会社と株主との関係を集団的・画一的に処理する会社の事務処理の便宜を図ることにあることから、会社のリスクで名義書換未了の株主を株主として扱うことは許されるものとされていることから、上記結論との整合性が問題となり得ます。

しかし、これが許されるのは株式譲渡自体が会社との関係でも有効であることが前提です。

そのため、会社の承認なき譲渡制限株式の譲渡のように、株式譲渡自体が会社との関係で効力を生じていなければ、会社が譲受人を株主と扱うことはできないものと解されます。

 

3.一人株主の全株式の譲渡の場合

それでは、一人株主が全株式を譲渡した場合はどうなるのでしょうか。

思うに、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあります。

そうだとすれば、一人株主が全株式を譲渡した場合、他の株主の利益保護が問題となる余地は全くありません。

したがって、一人株主の場合には、会社の承認は不要であると解されます。

なお、株主が二人だけの場合でも理論上この類型と同様に考えることが可能です。

株主が二人だけであるということは、つまり、その二人の株主が譲渡人と譲受人となっているということであり、会社にとって好ましくない者が株主になるおそれがないからです。

 

4.株主間での譲渡の場合

では、株主間での譲渡の場合はどうなるのでしょうか?(この場合、全株主が三人以上であるとする)

この場合、原則として、会社の承認がない以上、当該譲渡は会社に対抗できないのは同様です。

そして、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあるが、株主間における譲渡の場合には、会社にとって好ましくない者が新たに株主になるという問題は生じません。

そうだとすれば、株主間での合意に基づく株式の譲渡は有効であり、定款所定の承認を欠いても、会社に対抗することができるとも考えることができそうです。

しかし、個々の株主がどのような割合で株式を有するかという点についても、株主相互の関係にとって非常に重要であるといえます。

そのため、株主相互の株式の譲渡についても、定款所定の承認を要するものと解すべきです。

したがって、かかる譲渡を有効なものとして会社に対抗するためには、株主全員の間での合意を要すると考えるべきです。

この場合に限り、定款所定の承認がなくても譲渡は有効であり、会社に対抗することができると解する。

 

5.145条1号の見なし承認決議について

補論として、会社法145条1号の見なし承認決議の運用等について解説します。

本条の趣旨は、そもそも株式は譲渡自由が原則である(127条)以上、会社が譲渡承認請求に対する返答を意図的に遅滞することで、譲渡承認請求者による株式譲渡が不可能となる事態を防ぐことで、譲渡承認請求者に投下資本の回収を保障する点にあります。

そのため、仮に、会社が情報共有をしておらず、本件株式譲渡を承認するか否かについて検討する機会が失われていたとしても、145条1号は適用するべきでしょう。

もっとも、譲渡制限制度は株主の個性を重視する会社形態を考慮したものであるから、従来の株主保護を譲受人よりも優先させるべきです。

そのため、形式的に145条1号に当たる場合でも、従来の株主の地位を不当に脅かすような場合には、信義則上、同条の適用が否定される、とする見解もあるのでこの点には注意が必要です。

 

以上が、会社の承認なき譲渡制限株式の譲渡の効力でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.20更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊で弁護士をやっております葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回は、会社法106条の株主の共有について解説しようと思います。

実務上、株式の共有化が発生してしまうのは、高齢の株主が亡くなって相続が発生した場合、被相続人が有していた株式が相続人の共有となるのです。

実際上、よく起こりうる事例ですので、今回のテーマに選びました。

会社法106条では、共有株主の権利行使者を指定しなければ、共有株主の権利行使ができない定めとなっています。

そこで、まずは、どのようにして共有株主の権利行使者を定めるべきか、共有株主の権利行使の方法について述べたいと思います。

 

1.株式共有(106条)-共有株主の権利行使の方法

まず、株式が共同相続された場合、株式は自益権のみならず、共益権をも含むから、可分債権(民法427条)とみることはできません。

そのため、株式は共同相続人の準共有(民法264条)となるものと解釈されています。

そして、株式の共有者は会社に権利行使者を指定して通知する必要があるところ(106条本文)、権利行使者はどのように定めるべきでしょうか。

この点、共有者全員一致(同意)を要求するという見解も有力ではありますが、会社運営に支障をきたすおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮したという同条の趣旨を没却してしまいます。

また、権利行使者の指定は共有物の管理行為に該当する(民法252条)と解釈するのが素直です。

したがって、共有部得tの管理行為と同様、共有持分の過半数をもって決すべきであると解すべきでしょう。

判例も同様の見解に立っています。

ここで、株式の準共有状態は遺産分割が終わるまでの過渡的なものであるから、共同相続人は議決権行使方法につき事前に協議する機会が全員に与えられることが必要となります。

よって、一部の不参加がやむを得ない事情による場合、参加の機会を与えても指定の結果が異なることは考え難い場合等に限り、共同相続人全員による事前協議を欠いた権利行使者の指定は有効となると解釈できますが、他方で、そのような事情が認められず、全く協議せずに権利行使者を指定し、議決権を行使した場合には、権利の濫用として、その権利行使は許されないと考えるべきでしょう。

もっとも、会計帳簿閲覧請求権の行使のみを行うなど、他の共有株主の潜在的持分を害するおそれがない場合には、協議を経ていなくても、権利濫用に当たらないと解することもできます。

なお、事前協議によって定められた権利行使者は自己の判断で株主としての権利を行使することができます。

そして、株主の共有者間で権利行使に関しての内部的合意があったとしても、会社に対してこれを対抗することはできないとされています。

しかし、共有持分の過半数の決定があれば、権利行使者は各共有者の指示に従い議決権を行使する(各共有者の指示が異なるときは不統一行使(313条)をする)義務を共有者の内部関係上負うことになります。

そして、権利行使者が共有者の指示に反した議決権行使をしたことにつき会社が悪意の場合には、そのことをもって会社に対抗することができる(当該議決権行使は違法であり、決議は取消事由を帯びる)と解すべきです。
 

2.相続と株主名簿の書換え

共同相続人が相続株式の権利を行使する前提として、相続による株式の移転を会社に対抗しるために株主名簿の名義書換(130条1項)を要するのでしょうか。

株式の譲渡等の場合、譲受人は株主名簿の名義書換が完了しなければ、自己が株主であることを会社に対して対抗(主張)することができません。

しかし、130条1項は株式の「譲渡」の対抗要件を定めるにすぎず、相続その他の一般承継とは無関係な規定です。

また、相続人は被相続人の法的地位を包括的に承継するのだから、「名義株主」という地位をも承継すると解すべきです。

よって、相続による株式の移転は名義書換をしなくても会社に対抗することができると考えるべきでしょう。

このように考えなければ、基準日後(124条)に相続が生じた場合、相続人は議決権を会社の同意を得なければ(124条4項)行使できなくなり、また、その他の権利もおよそ認められなくなってしまいます。

株主の意思によって左右できない「死亡」の時期によってこのような不都合が生じるのは妥当ではないでしょう。

また、名義株主(被相続人)は既に死亡しているから、譲渡と異なり、名義株主と承継株主との間で権利行使の重複が生じるおそれもありません。

なお、この見解に立つ場合、株主総会への出席・議決権の行使のような、会社法の免責規定がない場合の処理をいかにするかが問題となります。

この点、相続人が株主総会に出席して議決権を行使するには自己の権利を証明しなければならず、そのような証明をしない相続人に対して、会社が株主総会の出席や議決権行使を拒んだとしても、決議は違法の瑕疵(831条1項1号)を帯びることはないと解すべきでしょう。
 

3.106条ただし書の適用範囲

参考:会社法106条「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」

共有者の過半数に基づく決定がない場合に、会社の方から権利行使を認めることができるのでしょうか。

確かに、上記、106条ただし書を文言通り解釈するとこれを肯定できそうです。

しかし、権利行使者の指定は共有物の管理に属する事項であり、それについての決定は共有者内部の問題であり、会社が勝手にその関係を変更することは許されないでしょう。

また、仮にこの点を肯定すると、会社の恣意的な運用を許すことになります。

したがって、共有株式の議決権行使の方法を共有持分の過半数による決定を要すると解するのであれば、各共有者が議決権を行使することもまた、共有持分の過半数の決定がない限り、たとえ会社が同意しても行うことはできないと解すべきです。

結果として、各共有者が議決権を行使することもまた、共有持分の過半数の決定がない限り、たとえ会社が同意しても(106条ただし書が適用されないため)行うことができません。

逆に言うと、共有持分の過半数の決定があれば、会社の同意を得て各共有者が議決権を行使することができることになります。

また、議決権とは異なり、違法行為是正のための株主訴権(828条・831条等)などは、保存行為(民法252条ただし書)の性格をもち、本来は共有者1人により行使できるものであり、会社法106条は会社の事務処理上の便宜のために権利行使者による行使を要求しているに過ぎないから、会社が同意すれば、共有持分の過半数の同意がなくても各共有者が訴えを提起できると解釈されるでしょう。
 

4.訴訟提起における権利行使者の通知

権利行使者が未確定にもかかわらず、ある共有者の権利行使を会社が認め(106条ただし書)不当な決議が成立した場合(前述のようにこのような権利行使は106条ただし書に反し、取消事由を構成する)、他の相続人は株主総会決議取消訴訟等を提起できるのでしょうか。

この点、訴訟提起も会社に対する権利行使の一種であり、実質的にみても会社運営の便宜を図った同条の趣旨が及ぶものと解されます。

したがって、この場合も106条本文に基づき、権利行使者の指定・通知をなす必要があり、これがない場合は、会社の同意(106条ただし書)がなされない限り、原告適格を欠くこととなります。
しかしながら、共有株式が発行済株式の全部又は過半数を占めているため、本来成立するはずのない決議が成立したような場合には、会社は一方で権利行使者の指定・通知をしなければ成立し得ない株主総会決議の成立を主張しつつ、他方で、権利行使者の指定・通知がないことを理由にこれを争うことは、防御権の濫用もしくは信義則違反として、原告適格が肯定される特段の事情があるといえると思われます。

 

以上で、株主共有に関する種々の論点の解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.10.06更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

会社法の論点シリーズですが、今回は設立中の会社についてです。

会社はきちんとした設立手続を経て法人格を取得するまでに、ある程度の時間がかかりますし、会社が設立されるまでに様々な取引行為が行われる場合があります。

今回は、そのような場合の法律関係について解説しようと思います。

 

1.設立中の会社の意義

まず、設立中の会社とはどのような概念なのでしょうか?

この点、法人格が付与されていない段階においても、会社の社団形成自体は徐々に行われており、一定の段階で権利能力なき社団たる設立中の会社の成立を認めることができるものと解されています。

そうだとすれば、設立中の会社と成立後の会社は実質的に同一の存在であるとみるべきであるから、発起人が設立中の会社の機関として行った設立のために必要な行為の効果は、会社成立前においても実質的には設立中の会社に帰属しているものと解されます。

したがって、このような会社設立前の発起人が行った法律行為は、会社の成立とともに形式的にも当然に成立後の会社に帰属するものと解釈されています。
 

2.設立中の会社の発起人の権限

では、設立中の発起人の権限はどのように解釈されるのでしょうか?

まず、設立中の会社は本質において成立後の会社と同一であるから、設立中の会社の機関として発起人が権限内で行った行為による権利義務は、特段の移転行為を要せずに当然に成立後の会社に承継されるものと理解されています。

それでは、設立中の会社の発起人の権限の範囲をいかに解するべきでしょうか。

そもそも、設立中の会社は会社の設立を目的とするから、会社設立のために直接必要な行為まで可能だとみなければならないでしょう。

よって、設立中の会社の発起人の権限は会社設立のために法律上・経済上必要な行為まで及ぶと考えるべきです。

もっとも、会社の財産的基礎を確保すべく、定款に記載がある範囲内で発起人の権限を認めるべきしょう。

以下、個別の行為毎に詳しく見ていきます。

➀財産引受け

財産引受けは本来権限の範囲外の行為であるので、定款への記載等を要件として法が特に認めた行為であるといえます(会社法28条2号)。

※なお、このような定款への記載を要件として法が特に認めた事項を変態設立事項といいます。

よって、定款に記載がなければ、無効となるの原則です。

では、会社から追認することは可能でしょうか。会社から追認することができれば、事後的に財産引受けも有効となり得るということとなります。

そもそも、会社法28条2号は開業準備行為である財産引受けについて、例外的に発起人の権限を認めたものです。

そうだとすれば、定款に記載がない場合には追認も認めるべきではないでしょう。

実質的に考えても、仮に追認が可能であるとすると、法の規定を守って、わざわざ時間と費用を費やして、財産引受けにつき定款記載・検査役の調査を行う者はいなくなり、制度が空洞化してしまい妥当ではないと言わざるを得ません。

よって、会社からの追認はできず、定款に記載のない財産引受けは無効であると解すべきです。

もっとも、取引後、長時間が経過した後に会社が無効主張をするなど、信義則に反する特段の事情が認められる場合もあるので、この点は注意が必要です。

また、無効とされた場合の、相手方の保護は、発起人が無権代理人に類似した地位に立つため、民法117条の類推適用によって図られることになります。

なお、発起人が将来成立する会社の代表者名義で取引をした場合、一般に会社と取引をする者が会社登記簿を調査しなかったとしても、これをもって直ちに過失があるとまではいえません。

しかし、設立中の会社の名で取引がなされた場合には、相手方は会社が未成立であることを知っているので、発起人が無権限であることを知り、又は過失によって知らなかったものとして、無権代理人の責任は否定される(民法117条2項)でしょう。

②開業準備行為                      

財産引受け以外の開業準備行為については、発起人の権限の範囲外です。

また、財産引受けと異なり、他の開業準備行為に関しては会社法に定めがないから、絶対的に無効とせざるを得ません。

もっとも、相手方としては、会社という「本人」が実在しない場合と同視でき、民法117条の類推適用により、費やした費用を発起人に対し賠償請求することができるでしょう。

③設立費用

設立費用は会社設立のために必要な行為であるから、当然発起人の権限内の行為です。

そして、判例は、定款に記載された額の限度内において、発起人のした取引の効果は成立後の会社に帰属し、相手方は会社に対してのみ支払いを請求できる(発起人には請求できない)としています。

そうすると、行為の時系列によって効果が帰属するか否かが区別されることになります(限度額を超える場合は、残額を発起人等に請求する)。

この場合、いずれの取引が先になされたか不明な場合の処理に窮しますが、そうした場合、債務の額に応じて案分した範囲で会社への請求を認めるとの見解があります。

もっとも、会社財産確保の観点から、定款記載等があっても、取引の相手方に支払責任を負うのは発起人のみであり、発起人は定款記載の額を限度として成立後の会社に求償できるとの見解も有力です。

 

※発起人組合と開業準備行為・事業行為

複数の発起人間の合意は民法上の組合契約です発起人組合)。

そして、発起人組合の目的は会社の設立であるが、発起人全員の合意があれば、開業準備行為や事業行為もその目的に含めることができます。

したがって、定款に記載のない財産引受け等の開業準備行為や、さらには事業行為など、設立中の会社の執行機関としては権限外の行為でも、発起人組合の組合員としては権限内の行為であるとものがあり得ます。

その場合、組合を代理する権限を有する者がした行為の効果は、発起人組合に帰属し、発起人全員が責任を負うことになります。
なお、発起人組合の行為か否かを、行為者の肩書により形式的に判断すると、設立中の会社の機関としては権限外の行為だが発起人組合の目的の範囲内となる行為が、組合の行為とされない可能性が生じ得ます。

そこで、肩書表示を重視せず、当該行為が、発起人の権限の範囲外だが発起人組合の目的の範囲内に含まれる場合、その効果は発起人組合に帰属し、発起人全員が責任を負うと解すべきでしょう。

 

以上で、設立中の会社についての解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.29更新

皆様こんにちは!

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムは、見せ金等の仮装払い込みによって、会社法上生じる問題について解説してきます。

 

1.見せ金の払い込みの効力

まず、見せ金によって、発起人が行った払い込みの効力どうなるのでしょうか?

その前に、見せ金の定義ですが、

見せ金とは、発起人が払込取扱機関以外の者から借り入れた金を払込に充てて会社を設立した上、会社の成立後それを引き出して借入金の返還に充てる行為をいう。

とされています。

これによると、確かに、見せ金は形式的には金銭の移動があり、個々の行為は有効と考えられます。

しかし、見せ金行為を全体としてみると、個々の行為は仮装払込みのためのカラクリの一環をなしているに過ぎず、実質的には会社財産は確保されていないのです。

そうだとすれば、見せ金による払込みは無効と考えるべきでしょう。

具体的に、いかなる場合が見せ金に該当するのかの判断基準は、判例上

①借入金を返済するまでの期間の長短

②払込金が会社資金として運用された事実の有無

③借入金の返済が会社の資産関係に及ぼす影響の有無

等を総合的に観察して、払込の仮装と認められれば無効となるものと解釈されています。

なお、見せ金の場合も、募集設立の場合には、払込取扱機関は64条2項類推適用により保管証明責任を負うものと解されています。
 

2.仮装払込みにより払込みが無効とされた株式の効力

では、次に、見せ金等の仮装払い込みにより、払い込みが無効とされた株式の効力はどうなるのでしょうか?

この論点は、会社法改正前であれば無効説が有力でしたが、現在では有効説が有力とされています。

すなわち、会社法の改正により、出資の払込み等を仮装した募集株式引受人の払込金全額の・出資財産の価額に相当する金額全額の支払義務を新たに法定するとともに(213条の2、286条の2第1項)、当該義務の履行を行わない限り仮装払込者の株主の権利が停止する旨、及び当該仮装払込者からの善意・無重過失で株式を譲り受けた者の手元で株主権停止が解除され株主としての権利行使が可能となる旨が規定されました(209条2項・3項、282条2項・3項)。

また、併せて、仮装払込み等の場合の関与取締役等の仮装払込相当額の支払義務を法定しています(213条の3、286条の3)。

こうした立法措置に鑑みるならば、見せ金による払込みを無効と解しても、募集株式の発行等の効力までは無効または不存在となることが予定されていないというべきであり、募集株式の発行等の効力は依然として有効と解さざるを得ないと考えられます。
 

3.仮装払込みと設立の効力

最後に、仮装払い込みがなされた場合の会社設立の効力はどうなるのでしょうか?

この点、仮装払込みは無効であり(上記1)、会社財産が「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)に満たないと、設立無効原因(828条1項1号)となります。

 

以上が、見せ金等の仮装払い込みの諸問題に関する解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.15更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

本日のコラムは、会社法論点シリーズの第2回です。

内容は「法人格否認の法理」です。

 

1.そもそも、法人格否認の法理とは?

法人格否認の法理とは、法人格が法律の適用を回避するために濫用されたり、あるいは法人格が全くの形骸にすぎない場合に、具体的な事例において、会社がその構成員または他の会社と独立した法人格を有することを否定する法理です(当該事例についてのみそのような処理をします)。

すなわち、会社は法人であり(会社法3条)、会社自身が権利・義務の主体となるのですが、逆に言えば、会社が負担した義務を他の者(例えば、株主や代表取締役等)が負うことはありません。

しかし、この原則を貫くと、かえって、正義・公平の原則に反する結果が生じる場合があります。

例えば、会社の実質が全くの個人企業であるような場合であり、会社の取引相手からすればその取引が会社としてされたのか個人としてされたのか明らかでないような場合や(形骸化事例)、法人格を意のままに利用している株主が、違法・不当な目的のために法人格を濫用している場合です(濫用事例)。濫用事例の典型は、強制執行を免れまたは財産を隠匿する目的で別会社を用いる場合が挙げられます。

このような場合、会社という法人各を否定し、会社とその株主や他の会社を同一視することによって、妥当な処理を図るべきでしょう。

 

2.法人格否認の法理は認められるのか?

それでは、この法人格否認の法理は法解釈として認められるでしょうか?

法律上はこのような処理を認める明文規定はありません。

しかしながら、会社に法人格が付与されるのは、会社が社会的に存在する団体であり、権利義務の主体として認めることが国民経済上有用だからです。

そうだとすれば、法人としての実体がないような場合(形骸化事例)、や法人格が濫用されている場合(濫用事例)には、法人たる会社の形式的独立性を貫くと正義・衡平に反する結果となるため、法人格を否認し、会社と社員とを同一視するべきです。

このような価値判断から、法律上の規定はないものの、判例上、法人格否認の法理は古くから認められています。

 

3.上記二類型の特徴・判断要素

以下では、法人格否認の法理として、類型化されている、「形骸化事例」、「濫用事例」について、その特徴と法人格否認の法理適用の判断要素を解説します。

⑴形骸化事例の場合

形骸化事例は、法人とはいうものの、実質は社員の個人企業や親会社の一営業部門に過ぎないような、社員と会社に実質的・経済的な一体性が認められる場合を指します。

具体的には、

①事業活動混同の反復・継続

②会社と社員の義務・財産の全般的・継続的混同

③明確な帳簿記載・会計区分の欠如

④株主総会・取締役会の不開催

などといった、強行法的組織的規定の無視等の諸般の事情を総合的に考慮して、会社と社員等の個人との一体性を判断するべきとされています。

 

⑵濫用事例の場合

濫用事例とは、会社の背後にあって支配する者が、違法不当な目的のために会社の法人格を利用する場合を指します。

具体的には、

①背後者が会社を自己の意のままに道具として用い得る支配的地位にあって、法人格を利用している事実(支配の要件)に加え

②違法な目的という主観的要素(目的の要件)

も必要となります。

 

以上、法人格否認の法理でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

2017.09.08更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

今回のコラムからは、会社法関係の論点をシリーズとして解説していきます。

まずは、手始めに一人会社から初めます。

 

1.一人会社が認められるか

まず、そもそも、一人会社とはどういう会社でしょうか?

一人会社とは、その名の通り、会社の構成員が一人である会社のことをいいます。

かつては、会社も社団法人であり、構成員が複数人いることが必要であるという議論もありましたが、一人会社を認める実益は大きく、これを認めても特段の不都合がないことから、現在では一人会社を認めることに異論はありません。

 

2.一人会社の株主総会の招集手続

株式会社では、株主総会には招集手続が必要であるとされています(会社法299条等)。

それでは、一人会社でも株主総会の招集手続を履践することが必要なのでしょうか?

そもそも、招集手続の趣旨は、株主に総会への出席の機会を確保し、また準備のための時間的余裕を与えることにあるとされています。

そうだとすると、株主全員が総会の開催に応じている場合には、その利益を放棄していると考えることができます。

したがって、一人会社では、構成員が一人である以上、原理的に株主全員が株主総会の開催に応じている場合に当たるといえるため、株主総会を開催するに当たって招集手続は不要であると考えられています。

 

3.一人会社の承認を欠く利益相反取引

一人会社の一人株主が(代表)取締役で、この一人会社が取締役会設置会社である場合、一人会社と当該取締役が利益相反取引を行ったとすると(取締役個人の不動産を一人会社が買い受けた場合など)、このような場合でも、会社法365条1項の取締役会の承認が必要となるのでしょうか。

そもそも、会社法356条1項2号・3号及び同法365条1項の趣旨は、取締役の権限濫用を防ぎ、もって会社の利益を確保することにあるとされています。

そうだとすると、実質的な会社の利益の帰属主体たる株主全員が承諾しているのならば、取締役会の承認は不要としてもよいと解釈できます。

したがって、一人株主の場合には、その一人株主が利益相反取引を承認しているとみなされるため、利益相反取引に際し、取締役会の決議は不要であると考えられています。

しかし、当該取締役(一人株主)は、善管注意義務違反・忠実義務違反等は別途問題になり得るため、かかる利益相反取引により、第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)を負う可能性があるので注意が必要です。

 

4.一人会社の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡

それでは、一人会社が譲渡制限会社である場合、一人株主が全株式を譲渡した場合はどうなるのでしょうか?

非公開会社である以上、会社の承認が必要となるのでしょうか?

そもそも、譲渡制限制度の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、他の株主の利益を保護することにあるとされています。

そうだとすると、一人株主が全株式を譲渡した場合、株主が一人しかいないため、他の株主の利益保護が問題となる余地はありません。

したがって、非公開会社である一人会社の一人株主が全株式を譲渡する場合、会社の承認は不要であると解されています。

 

以上で、会社法論点解説シリーズの「一人会社」でした。

次回も、会社法の論点について解説していきます。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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