皆様、こんにちは。
赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。
今回は、委任状にまつわる法的規制に関する論点を解説します。
1.委任状勧誘と利益供与
まず、会社から株主に、会社提案の議案に賛同するよう働きかけ、何らかの利益の供与があった場合に株主総会決議の取消原因を構成するのでしょうか。
この点、利益供与は、現行法上厳しく制限されている(120条、970条)以上、原則として全て禁止されるべきです。
もっとも、会社の慣行上の必要性から、形式的には利益供与に当たっても、それを一律に違法と断じてしまうと会社にとってあまりに不都合です。
そのため、例外的に違法とならない場合を認めざるを得ないのも実情ですので、どのような場合に違法となり、どのような場合に違法とならないのかの線引きが問題となるのです。
そこで、一般的な見解では、
①株主の権利の行使に影響を及ぼす恐れのない正当な目的に基づき供与される場合で(目的の正当性)、かつ、
②供与額が社会通念上許容される範囲の物であり(金額の相当性)、
③供与総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼさないものであるとき(総額の相当性)
には許容される余地があると解釈されています。
2.委任状勧誘規制違反と株主総会決議取消事由
まず、 一般に書面投票の場合、株主総会参考書類の不交付、様式不備の議決権行使書面の使用等は、招集手続又は決議方法の法令違反として決議取消事由となります。
これに対し、議決権の代理行使の勧誘は決議前の事実行為であって決議の方法ではなく、勧誘府令は決議方法を規定した「法令」(831条1項1号)ではないので、委任状勧誘規制違反が直ちに決議取消事由にはならないと解されています。
しかしながら、会社が賛否欄の記載を欠く委任状用紙を用いたり、参考書類に重要な不実記載があったような場合等、委任状勧誘規制違反の結果、決議が著しく不公正と認められるときは、決議取消原因となります。
また、書面決議を義務付けられた会社(298条2項)がそれに代えて行う委任状勧誘(298条2項ただし書・会社則64条)については、委任状勧誘規制違反は、決議方法の「法令」違反となるため注意が必要です。
ただし、第三者が委任状勧誘規制に反した場合には、決議取消事由と解することはできません。
3.委任状勧誘規制違反と委任契約
委任状勧誘規制の違反が、委任契約の効力に影響を及ぼすのでしょうか?
委任状勧誘規制違反が委任契約の効力に影響を及ぼすと考えると、議決権行使が無権代理として無効(民法113条1項)となり得ます。
この場合、無効な議決権数を参入して決議の成否を判断したことは決議方法の法令違反として(309条参照)、決議取消事由となるでしょう。
しかし、委任状勧誘規制違反の勧誘がなされても、委任状勧誘規制は取締法規であり、委任状勧誘に係る効力規定でないことから、勧誘行為及び代理人の議決権行使自体は私法上有効であると思われます(会社提案の賛否の記載は招集通知を受けるまで株主は了知し得ないため、その記載を欠いても勧誘府令43条には反しない)。
もっとも、賛否の記載のある委任状の指示に反して代理行使がなされた場合、当該記載が代理権の客観的範囲を画するものであるから、このような議決権行使は無権代理として無効となります。
4.株主総会途中で届いた委任状による議決権行使の可否
ところで、株主総会途中で届いた委任状による議決権行使は認められるのでしょうか。
委任状の提出時期については明文の規定がないため問題となります。
そもそも、会社法310条1項の趣旨は、株主総会に出席しない株主に対し議決権を行使する機会を確保し、株主の意思をできるだけ会社経営には反映させる点にあります。
そのため、株主の議決権行使の機会をできるだけ確保すべく、決議時までに委任の意思が明らかになればよいものと解すべきでしょう。
したがって、株主総会途中での委任状による議決権行使も、決議前であれば許されると解釈されています。
以上で、委任状にまつわる諸論点の解説でした。
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