弁護士葛巻のコラム

2017.10.06更新

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士の葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

会社法の論点シリーズですが、今回は設立中の会社についてです。

会社はきちんとした設立手続を経て法人格を取得するまでに、ある程度の時間がかかりますし、会社が設立されるまでに様々な取引行為が行われる場合があります。

今回は、そのような場合の法律関係について解説しようと思います。

 

1.設立中の会社の意義

まず、設立中の会社とはどのような概念なのでしょうか?

この点、法人格が付与されていない段階においても、会社の社団形成自体は徐々に行われており、一定の段階で権利能力なき社団たる設立中の会社の成立を認めることができるものと解されています。

そうだとすれば、設立中の会社と成立後の会社は実質的に同一の存在であるとみるべきであるから、発起人が設立中の会社の機関として行った設立のために必要な行為の効果は、会社成立前においても実質的には設立中の会社に帰属しているものと解されます。

したがって、このような会社設立前の発起人が行った法律行為は、会社の成立とともに形式的にも当然に成立後の会社に帰属するものと解釈されています。
 

2.設立中の会社の発起人の権限

では、設立中の発起人の権限はどのように解釈されるのでしょうか?

まず、設立中の会社は本質において成立後の会社と同一であるから、設立中の会社の機関として発起人が権限内で行った行為による権利義務は、特段の移転行為を要せずに当然に成立後の会社に承継されるものと理解されています。

それでは、設立中の会社の発起人の権限の範囲をいかに解するべきでしょうか。

そもそも、設立中の会社は会社の設立を目的とするから、会社設立のために直接必要な行為まで可能だとみなければならないでしょう。

よって、設立中の会社の発起人の権限は会社設立のために法律上・経済上必要な行為まで及ぶと考えるべきです。

もっとも、会社の財産的基礎を確保すべく、定款に記載がある範囲内で発起人の権限を認めるべきしょう。

以下、個別の行為毎に詳しく見ていきます。

➀財産引受け

財産引受けは本来権限の範囲外の行為であるので、定款への記載等を要件として法が特に認めた行為であるといえます(会社法28条2号)。

※なお、このような定款への記載を要件として法が特に認めた事項を変態設立事項といいます。

よって、定款に記載がなければ、無効となるの原則です。

では、会社から追認することは可能でしょうか。会社から追認することができれば、事後的に財産引受けも有効となり得るということとなります。

そもそも、会社法28条2号は開業準備行為である財産引受けについて、例外的に発起人の権限を認めたものです。

そうだとすれば、定款に記載がない場合には追認も認めるべきではないでしょう。

実質的に考えても、仮に追認が可能であるとすると、法の規定を守って、わざわざ時間と費用を費やして、財産引受けにつき定款記載・検査役の調査を行う者はいなくなり、制度が空洞化してしまい妥当ではないと言わざるを得ません。

よって、会社からの追認はできず、定款に記載のない財産引受けは無効であると解すべきです。

もっとも、取引後、長時間が経過した後に会社が無効主張をするなど、信義則に反する特段の事情が認められる場合もあるので、この点は注意が必要です。

また、無効とされた場合の、相手方の保護は、発起人が無権代理人に類似した地位に立つため、民法117条の類推適用によって図られることになります。

なお、発起人が将来成立する会社の代表者名義で取引をした場合、一般に会社と取引をする者が会社登記簿を調査しなかったとしても、これをもって直ちに過失があるとまではいえません。

しかし、設立中の会社の名で取引がなされた場合には、相手方は会社が未成立であることを知っているので、発起人が無権限であることを知り、又は過失によって知らなかったものとして、無権代理人の責任は否定される(民法117条2項)でしょう。

②開業準備行為                      

財産引受け以外の開業準備行為については、発起人の権限の範囲外です。

また、財産引受けと異なり、他の開業準備行為に関しては会社法に定めがないから、絶対的に無効とせざるを得ません。

もっとも、相手方としては、会社という「本人」が実在しない場合と同視でき、民法117条の類推適用により、費やした費用を発起人に対し賠償請求することができるでしょう。

③設立費用

設立費用は会社設立のために必要な行為であるから、当然発起人の権限内の行為です。

そして、判例は、定款に記載された額の限度内において、発起人のした取引の効果は成立後の会社に帰属し、相手方は会社に対してのみ支払いを請求できる(発起人には請求できない)としています。

そうすると、行為の時系列によって効果が帰属するか否かが区別されることになります(限度額を超える場合は、残額を発起人等に請求する)。

この場合、いずれの取引が先になされたか不明な場合の処理に窮しますが、そうした場合、債務の額に応じて案分した範囲で会社への請求を認めるとの見解があります。

もっとも、会社財産確保の観点から、定款記載等があっても、取引の相手方に支払責任を負うのは発起人のみであり、発起人は定款記載の額を限度として成立後の会社に求償できるとの見解も有力です。

 

※発起人組合と開業準備行為・事業行為

複数の発起人間の合意は民法上の組合契約です発起人組合)。

そして、発起人組合の目的は会社の設立であるが、発起人全員の合意があれば、開業準備行為や事業行為もその目的に含めることができます。

したがって、定款に記載のない財産引受け等の開業準備行為や、さらには事業行為など、設立中の会社の執行機関としては権限外の行為でも、発起人組合の組合員としては権限内の行為であるとものがあり得ます。

その場合、組合を代理する権限を有する者がした行為の効果は、発起人組合に帰属し、発起人全員が責任を負うことになります。
なお、発起人組合の行為か否かを、行為者の肩書により形式的に判断すると、設立中の会社の機関としては権限外の行為だが発起人組合の目的の範囲内となる行為が、組合の行為とされない可能性が生じ得ます。

そこで、肩書表示を重視せず、当該行為が、発起人の権限の範囲外だが発起人組合の目的の範囲内に含まれる場合、その効果は発起人組合に帰属し、発起人全員が責任を負うと解すべきでしょう。

 

以上で、設立中の会社についての解説でした。

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投稿者: 弁護士葛巻瑞貴

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