皆様、こんにちは。
赤坂、青山、渋谷近郊で弁護士をやっております、葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。
今回は、前回のコラムでも紹介した、「有責配偶者からの離婚請求」について解説していこうと思います。
1.離婚原因があっても離婚が認められない場合がある
前回のコラムで説明した民法770条1項条の離婚原因が存在したとしても、
離婚請求者側が有責配偶者であり、このような配偶者からの離婚請求が信義則に反する場合には、離婚請求が認められません。
2.有責配偶者の意義
有責配偶者とは、夫婦関係の破綻に専ら又は主として責任のある配偶者であるとされており、具体的には、不貞行為を行った配偶者等が典型例とされています。
すなわち、離婚の原因を作った配偶者が離婚請求をするのは、
相手方からすれば、いわば「踏んだり蹴ったり」であって、
有責配偶者の離婚請求を一定程度制限しようとするのが、この法理の趣意となります。
3.信義則違反の判断基準
それでは、このような有責配偶者からの離婚請求が信義則に反するとされ、離婚請求が認められないのは、どのような場合でしょうか?
判例上、この判断には
・有責配偶者の責任の態様・程度
・相手方の婚姻継続の意思
・請求者に対する感情
・別居後の双方の状況、
・離婚となった場合の相手方及び子の状況等
・時の経過がこれらの諸事情に与える影響
等が考慮されなければならないとされています。
特に、具体的には
➀夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期に及んでいるか否か
②夫婦間に未成熟の子が存在するか否か
③相手方が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を要求することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存在するか否か
といった諸点が総合的に考慮されなければならないとされています。
なお、あくまで、総合判断なので、上記➀~③の事情は特に考慮される事情ではありますが、不可欠な事実というわけではありません。
例えば、裁判例の中には、②の未成熟の子が存在していても、離婚請求が認められた例もありますし、
②・③の有無を考慮することなく離婚請求が認められた例もあるため、形式的に上記➀~③の要素をあてはめて結論を導くことはできないのです。
結局は、➀~③の事情が中心的な要素となるものの、それ以外の様々な事情を総合的に考慮して、有責配偶者からの離婚請求が信義則に反するのか否かを判断することになります。
4.各3要素の留意点
また、参考までに、中心的なファクターである上記➀~③の各要素について、どのよう事情を考慮して判断されているのかについて簡単に説明しようと思います。
まず、➀の別居期間ですが、
別居期間は、年齢及び同居期間との数量的な対比に加えて、別居後の時の経過が当事者双方についての諸事情に与える影響や、離婚を請求されている側の有責性の有無・程度をも考慮して判断されることに注意する必要があります。
次に、②の未成熟の子の有無ですが、
親の監護を受ける未成熟の子がいる場合であっても、子の精神的な成熟度、不要を要しなくなるまでに要する期間の長短、離婚後に予想される監護体制等諸般の事情に鑑み、離婚請求を認めることが子の利益及び福祉に悪影響を及ぼさないのであれば、有責配偶者の離婚請求でも認められる余地があると解釈されています。
最後に、③の特段の事情ですが、
この判断の中心は経済的な苛酷状態であるとされています。
裁判例において考慮されているのは、離婚給付の予定や実効性といった離婚給付に関する諸事情、離婚請求をされた相手方配偶者の収入資産の状態や離婚後の経済的安定度、離婚請求者による婚姻費用の分担、離婚請求された相手方配偶者が離婚請求名義の住居に居住している場合の居住関係、相続権・公的扶助受給権の喪失といった事情です。
このことからも明らかなように、➀~③の要素についても形式的な判断はなされていないのです。
5.婚姻関係破綻後の不貞行為にはご注意
以上のように、有責配偶者からの離婚請求は制限される可能性があるのですが、
有責行為(例えば、不貞行為)の時点において、既に夫婦関係が破綻していた場合には、上記法理は適用できません。
すなわち、有責配偶者の離婚請求が排斥されるためには、離婚請求者の有責行為が婚姻関係の破綻に原因を与えたという因果関係が必要であり、
有責行為が婚姻関係の破綻後に生じたときは、有責配偶者とはいえない、とされているのです。
したがって、有責行為と婚姻関係の破綻の先後関係が非常に重要になるので、この点が争点になる場合には、有責行為の開始時点に、婚姻関係が破綻していたのか否かということに関する事実を積み上げていく必要があります。
以上で、有責配偶者の離婚請求についての解説を終わります。
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